源氏鶏太「幸福さん」☆☆☆
昭和28年に発表の小説・・・という事は管理人も未だ生まれていない時に書かれた作品です。
この小説を読むとこの人たちは今の日本人と本当に同じ民族なのかな?と思ってしまうくらい純朴な印象を受ける素敵な人たちが登場してきて、天真爛漫で奇妙に明るい世界に憧れてしまう作品です。
53歳の花子さんが、釣堀で知り合った59歳の丹下さんの事が好きでたまらなくなり、思い切って私を花嫁さんにして下さいません?と話しかける。
今ならそれ程違和感を感じませんが、この当時ではスキャンダル。花子さんの息子は出来栄えの良い息子では有るけど、世間体を気にして母親に外出禁止を申し渡してしまうのですが・・・。
何だか隔世の感がありますよね。
今なら53歳なんて人生まだまだこれからという年齢ですし、息子が人を好きになった母親に外出禁止だなんて理不尽なという怒りすら感じますが、でもそういう時代だったんだろうし、何よりこの作品に登場する人たちはみんな善人だし明るく前向きだよなぁ・・・。
熟年の男女の恋愛を主題にした物語ですけど、ドロドロしたところなど皆無の人間賛歌という風な作品です。
丹下さんと花子さんの話だけでなく、丹下さんの家の離れに住む両親を亡くした兄妹の情愛と結婚話や丹下さんの家を出た娘の話など、ものすごく古風な展開が些かバカらしさを感じさせながらも人間の善意が感じられて心地良い。
出だしの釣堀の場面からして、何だかその場所が目に浮かぶような、空を見れば抜けるような青空が広がっているのが見えてくるみたいな、そんなのびやかな印象を受ける作品で、読んでいて気持ちがよく本当に心が暖まる物語です。