ジョー・ウォルトン「図書室の魔法」☆☆☆

図書室の魔法

1979年から1980年のイギリスを舞台にして、辛い事件から立ち直っていく15歳の少女の一人称で書かれた青春ファンタジィです。

色々な読み方が出来そうな作品ですが、管理人は素直にそう読みました。


一度も会った記憶のない父ダニエルの家に引き取られた少女モリ。

母親は魔女を自称し精神的に病んでいるが、ちょっと見た目には普通に見えるため、親族も社会も助けにならなかった。

とある事件で双子の妹モルを亡くし、自身も足に障害を負い、児童福祉局の世話になって初めて、モリは母親の手から逃れられた。

結婚して直ぐに妻を捨てたダニエルに不信感を抱きながら彼の家に向かうモリ。ダニエルは3人の腹違いで未婚の姉たちと一緒に暮らし、生活費を裕福な姉たちに頼っていることから、彼女たちの言いなりになっている。

そして3人の伯母たちはモリを上流階級の子女向けの寄宿学校に入学させる事を決める。

ウエールズの庶民階級の家庭で育ったモリには、気取ったイングランドの寄宿学校の校風も生徒たちも肌に合わず、周囲から浮いてしまうが、モリにはSFやファンタジィを中心にした読書の楽しみという強い味方があった。

奇しくも父ダニエルもSFファンの読書家でモリに理解を示し、更に近くの町の図書館で開かれる読書会に参加することで、モリは孤独な心を癒やし成長していく。


これはファンタジィなのかな?

フェアリーも悪い魔女(母)も魔法も出てくるけど、少女の妄想というか願望というか、彼女の想像する夢の世界の話なのかな?という疑問を抱きながら読みましたが、途中まで読んだ段階で、もうそういう事はどうでもいいか、という気分になりました。

そういったモノもこの作品の要素ではありますが、どちらかと言えば常に一緒で何もかもが分かり合えた双子の妹を亡くし、喪失感と孤独にとらわれていた聡明な少女の癒やしと成長の物語であり、1970年代までのSF・ファンタジィに対するリスペクトを表現した作品だと思います。

ちょうど同じ頃に、翻訳SFやファンタジィを読んでいた管理人にとっては、読んだことのある作品、作家がずらずらと登場してきて、何となくウレシイ気分になりました。

この作品がヒューゴー賞を受賞するのは分かるような気がします。

 

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