山本一力「草笛の音次郎」☆☆☆
浅草今戸が縄張りの貸元恵比寿の芳三郎の子分音次郎は、音次郎を高く評価する代貸・源七の命を受け、まだ名が知られていない若い侠客ながら芳三郎の名代として佐原へ旅立った。
そんな音次郎が旅先で起こる様々な事件や人との出会いによって大きく成長していく姿を描いた股旅時代小説です。
侠客と言っても所詮はやくざですから、登場する人が軒並み立派な人物なのには微妙な違和感が有ります。
しかし昔ながらの伝統的な股旅物の気配を感じさせて、懐かしい人情物というポイントをキチンと押さえて、大衆演劇を見ているかのような気分を味わえる作品には、読み始めると止められない爽快さがあります。
義理と人情にあふれた礼儀正しい渡世人に現実感は感じませんが、これはこれで面白い時代小説を読んだな、という気分になりました。
ある意味時代小説の王道を行く作品で、たまにはこういう作品を読みたいものです。