五木寛之「青春の門」☆☆☆

青春の門

炭鉱の町・福岡県筑豊に生を受けた伊吹信介は、幼い頃に実母を亡くし、その男気から坑夫たちの信望を集めていた父・重蔵を炭鉱内の事故で亡くし、重蔵と燃えるような激しい恋をした元女給の義母・タエに育てられた。

戦後の混乱が続く中、タエは信介を重蔵と同じように筋の通った男に育てようと炭鉱内で働いているが、美しいタエを巡り重蔵のライバルであった任侠の塙竜五郎や、重蔵が炭鉱内で助けた朝鮮人徴用工の金朱烈、重蔵に世話になった者たちが手を差し伸べようとする。

タエはそうした心遣いに感謝しながらも、支援を断って自らの手で信介を育てているが、朝鮮動乱が勃発しタエが肺を病んだことから、中学生となった信介とタエは竜五郎に引き取られ、そして信介は様々な経験や新しい出会いを通して自らの人生に踏み出していく。


激動の時代に生まれ、さまざまな出来事を糧として成長していく一人の青年を主人公にした大河小説です。

管理人がこの作品を読んだのは20代の半ばくらいでしたが、高校生くらいの時に読んでおきたかったなぁと思ったものです。

信介が子供の頃の話は任侠物風な印象ですが、彼が青春期を迎えて無軌道な生き方を始め出すと、青春の門というタイトルが嵌ってきて、無茶なことでも自分が望むがままにやってみる信介の姿に色々と思うことがありました。

筑豊篇の中で一番印象的だったのは、いじらしいくらいに可愛くて、そして切ないイメージのある信介の幼馴染の女性牧織江で、筑豊に生まれた信介の本当の故郷は、この牧織江の中にあるんじゃないかと思いました。

そういう健気な織江、尊敬される父親の重蔵、美しく逞しく優しいタエ、律儀で侠気のある竜五郎など、小説の中とは言え魅力的な人たちに囲まれた信介が羨ましかったですね。

管理人などは特に大きな波乱もなく、時には降りかかる火の粉を払いながらも、全体的には淡々とした人生を歩んできましたから、物語になるような青春時代を過ごした記憶はありません。

それはそれで良いことだと思いますが、決められた道だけを歩むのではなく、意図せずとも人を傷つけ、自分も傷つきながら、様々な経験を積み重ねて成長していく時期を青春と言うのかなとも思います。

そういう青春は自分には向いていないけど、こういう作品を読むと心が震えて来ますね。

青春期に読みたかった作品です。

       

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