古川日出男「アラビアの夜の種族」☆☆

アラビアの夜の種族

ナポレオン率いるフランス軍がエジプトに侵攻してくる。

エジプトを支配する23人のマムルーク朝の首長たちはフランス軍など何するものぞと撃破に自信たっぷりだったが、しかし首長の一人イスマーイールはナポレオンの脅威を素直に認め、このままではエジプトは破滅すると恐れていた。

イスマーイールの信頼厚い秘書官である奴隷アイユーブは、軍事力では敵わないフランス軍に対抗するため、読む者を破滅に導くという呪われた書物「災厄の書」をナポレオンに献上してこの危機を乗り越えんと、災厄の書の物語を知る闇の語り手ズームルッドを探し出す。

夜毎ズームルッドが語るのは、王にして醜悪な稀代の魔術師アーダム、美しいアルビノの魔法使いファラー、王位を簒奪され盗賊に育てられた王子サフィアーンの三人と、ソロモンの秘術により囚われの身となった邪悪な精霊ジンニーアとの千年に渡る不思議な物語。

こうして新しいアラビアン・ナイトが語られていく。


外国語の原書を翻訳したという形で書かれた、第23回日本SF大賞と第55回日本推理作家協会賞を受賞した壮大で不思議な雰囲気のファンタジィです。

まるで新しい千夜一夜物語だという風に初めのうちは感じましたが、状況からして千夜も続くわけもなく、また千夜一夜物語ほどバラエティに富んでいる訳でもありません。

民間伝承のような話と違って、きちんとした流れとテーマで構成された緻密なファンタジィです。

韻を揃えたような長い文章が、古めかしいアラビアの物語の雰囲気を醸し出していますが、管理人はやや冗長な印象を受けて、読みづらいような気がしました。

もう少し簡潔で短い文章の方が、管理人には読みやすいですね。

若い頃だったら一気に読んでしまったかもしれませんが、最近こういう物語を読むのに、それなりの力が必要みたいで、読み終えるまで案外と時間がかかってしまいました。

翻訳の形をとったミステリィというと、皆川博子の「死の泉」を連想しますが、「死の泉」が翻訳物である事を活かした作品だったのに対して、この作品には特にそういうこともなかったように思います。

但し管理人には最後まで原書が本当に実在しているかどうか分かりませんでした。

「The Arabian Nightbreeds」という原題だというのでGoogleで検索してみましたが、ヒットするのは日本語のサイトばかりだし、結局この物語は作者の完全なる創作のようです。そういう点では巧みな作品ですねぇ。

全体的には面白かったけど、読むのに少々疲れた異色のファンタジィでした。

  

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