C・J・ボックス「ブルー・ヘヴン」☆☆☆

ブルー・ヘヴン

アイダホ州北部の自然に恵まれた小さな町で、シングルマザーと暮らす12歳の少女アニーと10歳の弟ウィリアムは、二人だけで釣りに出かけた森の中で、3人の男が一緒に居た仲間を射殺する現場を目撃してしまう。

非情な目をした犯人の一人と目があったアニーは、彼らから逃走している最中に、犯人たちが引退した元警察官だと知り、母親に危害が及ぶことを恐れて、森の近くにある牧場の小さな小屋に身を隠す。

子どもたちが帰宅しない事を心配した母親は保安官に連絡し、保安官はボランティアによる捜索隊を組織するが、その捜索隊の中心となったのはアニーたちの口を封じようとしている元警察官の犯人たちだった。

一方、小屋に隠れていたアニーたちを見つけた牧場主のジェスは、警察や母親に通報することをアニーに止められ、殺人事件を目撃したというアニーたちの言い分を半分疑いながらも、町に赴き状況を調べることにする。


殺人事件を目撃した子供とそれを追う犯人を描いた緊迫したサスペンス、という要素ももちろんありますけど、それよりもこの作品は、様々な登場人物の生き様や人間模様を描いた作品になっています。

家庭に恵まれず、自身もシングルマザーとして子供を育てているが、満たされない思いを抱えてロクでもない男を愛人にした美しい母親。

殺人現場を目撃し犯人に追われ、誰も信じる事が出来なくなってしまった父親が違う幼い姉弟。

この地域を支えてきた一族の誇りを持ちながら、息子は精神を病み、妻には逃げられ、時代の流れに呆然とする老カウボーイ。

自分が担当した未解決の事件を気にして、退職したにもかかわらず事件捜査で町を訪れた元警官。

時代に取り残されないように奮闘した銀行家。

殺人を犯す元警察官たちですら、警察官になった当初は正義を守る事に意義を抱いていた事が描かれていて、職務に忠実であっても報われない社会に対する怒りから犯罪に手を染めていく姿が切ない。

子どもたちとその母親を守るために立ち上がる老牧場主が、ジョン・ウェインやクリント・イーストウッドが晩年に演じた頑固な老カウボーイの姿を連想させます。

人生は不条理に満ちている、しかしそれでも前を向いて生きていかなくてはいけない、というようなメッセージを感じる2009年のエドガー賞を受賞したサスペンス小説です。


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