貫井徳郎「後悔と真実の色」☆☆☆
第23回(2010年)の山本周五郎賞を受賞したミステリィです。
若い女性をナイフで切り裂き、死体から人指し指を切り取るという手口の殺人事件が発生する。
斬新な発想で事件解決の糸口をつかむ事から「名探偵」と揶揄されている警視庁捜査一課の刑事・西條は、事件の第一発見者で所轄警察の制服警官・大崎とコンビを組んで聞き取り調査に取り組むが、犯人像も摘めないうちに同様の手口の殺人事件が発生する。
これが猟奇連続殺人事件と報道されるに至って、ネット上で犯人に「指蒐集家」という呼称が与えられ、そしてネットの掲示板には犯人が書き込んだと思われる殺人予告が現れる。
一向に進まない捜査、後手を踏み犯人に翻弄される警察。不協和音に荒れる捜査現場。
そうした中、周囲に気配りすることなく犯人逮捕に邁進する西條は、何者かの陥穽に陥る。
警察小説?と思うような前半部で、さまざまな登場人物が紹介されますけど、初めのうちは主人公が誰なのかハッキリしません。
ただ登場人物はそれぞれ見た目通りではなく、問題を抱えている人物が多い。
読み進むうちに警察小説というよりも人間ドラマの様相を示してきます。
ほとんど家庭内離婚状態の西條には愛人がいる。
機動捜査隊の綿引は西條に対して理不尽な嫉妬と怒りを感じて天敵のようになっているが、本人は極めて真面目で真っ当な警察官でもある。
制服警官の大崎は幼い頃に母親が事件で死んだことが警察官になるきっかけだったという。
捜査一課の三井は誰に対しても愛想良く接するが内面が読めない男。
やる気のない村越は離婚経験者で、知り合いの新聞記者に飲み代をたかる。
一癖も二癖もある登場人物たち。そして後半になると物語は急展開していきます。
犯人に意外性はなかったけれども、犯行の経由は分かりやすくて、作者の描き方もフェアだったので納得出来ました。
しかし西條の転落があまりに急で気の毒で、そういう人間模様を描いているからこその山本周五郎賞だったのですかね。
余韻を感じる作品でした。