藤沢周平「用心棒日月抄」シリーズ ☆☆☆
「用心棒日月抄」シリーズは名作揃いの藤沢周平作品の中でも管理人が一番好きな時代小説です。
物語に奥行きがあって、エンターティメント性に富んでいて、読んで楽しく面白い作品です。
藩主毒殺の陰謀をひょんな事から耳にした青江又八郎は、その陰謀について許婚の父親でもある藩の目付に相談するが、その帰り際に突然父親に斬り付けられる。
何と許婚の父親も陰謀を企てる一味の一人だった。
父親を返り討ちにした又八郎はその足で脱藩し、江戸に出て用心棒稼業につくのだが、陰謀を企てている勢力は藩内部に大きな力を持ち、国元でも有数の剣客が刺客として又八郎を襲う。
果たして又八郎の運命は・・・というような話で、浪人となった事情が事情だけに、愛憎が交差する悲惨な話になっても不思議がないはずが、どことなくユーモラスな連作になっています。
今までに管理人が読んだ時代小説に、これほど年中米びつの中を心配する様な、こんなにすぐ腹が減って仕方がなくなる剣豪の話はなかったと思います。
口入屋が紹介する用心棒の僅かな日当について、こんな風に書かれているところにも非常に共感を覚えます。
いくら強くたって人間だもの、お腹も空きますよね。
又八郎に父親を斬られながらも又八郎を待ち続ける許婚の心情は、幾らその父親が遺言として遺したにしても良く分からないけど、それが故に全体的に暗いトーンになっていなくて、結果めでたしめでたしとなりますし、登場人物は皆さん個性的でこの作品はホントに面白い作品です。
帰藩が叶った後にも、藩内抗争に良いように使われる又八郎ですが、活劇があり、人と人との触れ合いがあり、恋があり、日々の暮らしがあり、武士の矜持があって、シリーズ最終章では歳を重ねた登場人物たちが描かれていて、色々な点で上手いなぁと思わせてくれる時代小説です。