佐々木譲「北帰行」☆☆☆

北帰行

ロシア女性専門の売春組織を取り仕切る六本木のヤクザの組長が、商品である売春婦に手を出した上に、その売春婦から代金を請求されたことに腹を立て彼女を殺してしまう。

ヤクザに売春婦を斡旋している韓国系のロシアン・マフィアは、派遣している女性が殺されては自分たちの立場がないと、その始末をつけるように日本側に強く要求するが、殺したのが組長だった事もあって当然のことながらロシアン・マフィアの要求は断わられた。

報復の為にロシア本国から送られてきたのは美貌の刺客タチアナ・クリヤカワ(ターニャ)だったが、ターニャは殺された売春婦の実の姉でもあった。

ロシア専門の旅行代理店を個人で営業する関口卓也は、何も事情を知らぬままターニャをアテンドする事になるが、いつしか抗争事件に巻き込まれ、ターニャに脅されて不本意ながらヤクザの組長を暗殺した彼女の逃亡を助けるハメに陥る。

東京から新潟、そして北海道の稚内と、ヤクザ組織と警察からの逃避行を続けるうちに、巻き込まれたはずの卓也は、いつの間にかターニャを国外に逃す事に命をかけるようになっていく。


スピード感と緊迫感にあふれたクライム・ノベルです。

女性として魅力的な表情を見せたかと思えば、非情な暗殺者として感情のない顔をのぞかせるターニャと、ごく普通の旅行代理店業者なのに何故か彼女を助けてしまい、徐々に抜き差しならぬハメに陥っていく卓也との触れ合いに読み応えがあります。

闇組織ならではの掟、思いがけない展開、信頼と裏切り。未来の見えないターニャと卓也の逃避行。けっして合理的とは思えないような行動を取る卓也に、管理人は妙に共感しまいます。

どうやってこの話をまとめ上げるのかと思いましたが、この結末は流石でした。

時間が経つ毎に離れられなくなる男と女の気持ちを交えながら描かれた骨太の冒険小説です。


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