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奥田英朗「空中ブランコ」の感想です。

奥田英朗「空中ブランコ」☆☆☆

空中ブランコ

やたらと患者に注射をするのが大好きというメチャクチャな精神科医・伊良部一郎を主人公にした伊良部一郎シリーズの第2作目の作品で、第131回(平成16年/2004年上半期)直木賞受賞のユーモア溢れる連作短編集です。


サーカスの空中ブランコのスターだった男が、近頃うまく飛べずに失敗するのは相方のせいではと疑う「空中ブランコ」。

先端恐怖症にかかって刃物が怖くて仕方がないヤクザを描いた「ハリネズミ」。

学会の重鎮の恩師の家に養子に入ったものの、それが原因でストレスがたまり、取り澄ました養父のカツラを取りたくて仕方がなくなる伊良部と同期の精神科医を描いた「義父のヅラ」。

極端なスランプに陥った野球選手の話「ホットコーナー」。

売れてはいるけどマンネリ化したトレンディな小説にはうんざりで、本当に自分が書きたいテーマの小説を出版して欲しいけど、以前書いた渾身の一作が全く売れなかった事がトラウマになっている作家を描いた「女流作家」。

収録された5編の短編はどれも、伊良部総合病院という大病院の地下にある怪しげな精神科医にかかった患者が、この医者はおかしいと疑いながらも、彼が起こす騒動に巻き込まれていくうちに、いつの間にか悩みを解決して自分を取り戻しているという、可笑しくて何となく心が洗われるような作品で、実に深い味わいがあります。


伊良部一郎シリーズ
 「イン・ザ・プール」
 「空中ブランコ」(本書)
 「町長選挙