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柚月裕子「最後の証人」の感想です。

柚月裕子「最後の証人」☆☆☆

都内に事務所のあるヤメ検の弁護士・佐方貞人は、北の地方都市・米崎市で起きた殺人事件の弁護を引き受けていた。

交際関係のもつれから起きた殺人事件で、被告人は無実を訴えているが、状況は限りなく被告に不利に思える。

わざわざ地方都市に出向いてまで受けるような事件ではないが、事件に興味を持った佐方は、高額な報酬と「面白くなりそう」だという理由で弁護を引き受けたのだ。

裁判で佐方に対峙するのはまだ若い敏腕女性検事・庄司真生で、真っ直ぐな正義感を持ってこの事件に挑んでいる。

裁判で明らかになっていく様々な真実。果たして裁判の行方は?


法定推理小説だと思って読むと、やや肩透かしを受けてしまいます。

この裁判の遠因となる、7年前の少年の交通事故死とその背景、残された家族や関係する人々の苦悩などが巧みに描かれていて、物語の終盤まではそちらの物語の方が詳細に描かれています。

物語の主人公も死んだ少年の父親である医師の高瀬光治のようで、読者は彼に感情移入してしまいます。

それだけに、仲が良かったごく普通の家族の中で、最後まで生き残った高瀬光治の気持ちと、更に言うならば高瀬夫妻の絆に強く胸を打たれました。

彼はこれからの人生をどのように歩んでいくのか・・・。人の世の無常を感じます。

とても面白い作品でした。