面白い本を探す

門井慶喜「銀河鉄道の父」の感想です。

門井慶喜「銀河鉄道の父」☆☆☆

明治29年(1896年)8月、仕事で京都に来ていた岩手花巻の質屋の主人で23歳の宮沢政次郎は、父喜助からの電報により長男が誕生したことを知る。

20日ほどが過ぎて花巻に戻った政次郎は、賢治と名付けられた赤子に初めて対面し、何とも言えない父親としての深い感動を味わう。

一度は没落した宮沢家を三男でありながら継いで立て直した喜助は堅実な性格で、そんな喜助から政次郎は厳しく育てられた。

学校の成績は全て'甲'で、勉強も運動も出来て人望もあったが、喜助は質屋に学問はいらないと、跡継ぎ息子を進学させずに自分のもとで仕事を覚えさせた。

政次郎も同様に賢治を厳しく育てる積りでいるのだが、しかし政次郎の心中には賢治のためならどんな事でもしてやりたいという抑えがたい気分もまたあるのだった。


「銀河鉄道の夜」や「風の又三郎」あるいは「雨ニモ負ケズ」で有名な童話作家・宮沢賢治の誕生から亡くなるまでを、賢治の父・政次郎の視点で描いた第158回直木賞受賞の傑作小説です。

裕福な家庭に生まれ育ち、質屋に学問は不要という喜助を政次郎が説得した事から盛岡中学校に進学したものの、卒業しても家業の手伝いも上手く出来ずに鬱々とした日々をおくる賢治。そんな賢治を見かねて、政次郎は盛岡高等農林学校への進学を許すが、農学校を卒業しても賢治は地に足がついた生活が出来ない。

こういう期待はずれな息子の姿を見て、政次郎の心の中にはこいつは現実から逃げているダメな奴だという気持ちと、どうしようもなく息子を愛している父親が存在していて、こういうところに同じ父親として深く共感します。

賢治自身も自分の至らなさには気づいているし、父親の大きさにとても敵わないと思い、忸怩たる気分でいるわけですけど、それを乗り越えて強い信念を持って行くようになるところは、やはり彼も只者ではなく、そういう息子を育て上げた政次郎はやはり偉大だと言うことなのでしょう。

政次郎の視点から描くことで、今まで漠然と考えていた聖人のような宮沢賢治像とは違う、自分の在り方に悩める普通の青年が浮かび上がってきて、新しい発見と感動がありました。面白い作品でした。