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石坂洋次郎 「陽のあたる坂道」の感想です。

石坂洋次郎「陽のあたる坂道」☆☆☆

陽のあたる坂道

女子大生・倉本たか子は大学の主事に紹介され、高校生の少女・田代くみ子の家庭教師になった。

くみ子の次兄・信次は自由奔放な性格でたか子を慌てさせるが、会社を経営する父・玉吉、落ち着いた印象で上品な奥様の母・みどり、優秀な医大生で礼儀正しい長男の雄吉など、田代家は傍から見ると裕福で幸せな上流の家庭だった。

しかし田代家の人たちと接しているうちに、たか子は幸せそうな家庭の中にある複雑な事情を知ることになる。


会社を経営する裕福な田代家の娘くみ子の家庭教師になった女子大生倉本たか子を中心にして、複雑な事情を抱える田代家内での確執や次男信次とたか子との恋などを描いた青春小説の傑作です。

舞台はロカビリーが流行りだした頃の東京。まだ都電が縦横に走っていて、高層ビルなどない時代。戦後は終わったと言われ、人々の生活にも余裕が生まれ、未来が明るく開き始めた春の時代を迎えた日本です。

こういう時代風俗を描かせると石坂洋次郎という作家は本当に素晴らしい。

管理人が生まれて間もない時代が舞台ですので、この作品を読むたびに何だか妙に懐かしさを感じます。

ここで描かれる当時の上流家庭は金銭的に豊かというよりも文化的に豊かという風で、話している言葉には品があって、今の日本人とは別の人達という印象を受け、読んでいて心地良い気がする。

また信次と彼の異母弟でロカビリー歌手の高木民夫との近親者同士の甘えを感じさせる確執が奇妙に羨ましく思えます。

人と人との繋がりが今の時代よりももっと密接だった時代なんですね。

主人公のナイスガイ田代信次は当時デビューしたばかりの俳優石原裕次郎をイメージして書かれたとも言われているようですが、実際にこの作品は裕次郎主演で映画化されています。

又、信次はエデンの東のジェームス・ディーン演じるアロンにも通じるようなところがあるように思います。

どことなく温かい雰囲気もあるし、全体的に前向きな感じがして、こういう風俗小説は何度読んでも良いなぁ。