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山田太一 「見なれた町に風が吹く」の感想です。

山田太一「見なれた町に風が吹く」☆☆

見なれた町に風が吹く

中堅商社に勤める37歳の独身女性・香子は、営業部でガンガン働いて主任に昇進したものの体を壊し、閑職にまわされてしまった。

給料は下がるし、今の仕事はやりがいを感じない。

気ままな独身の一人暮らしで暇を持て余しているけど、だからと言って以前のようにハードワークをしたいとも思わない。もともと自分に合わなかった仕事だと思っている。

仕事に生きがいを感じないとは言っても、今更結婚したいとも思わない。

結婚したくない訳でもないが、相手が誰でも良い訳じゃないし、自分に都合の良い相手なんて簡単に見つかるわけがないと思っている。

そういう生活をしている中で、以前から好きだった映画の事でも勉強しようかとカルチャー・スクールに通いだした香子は、そこで一人の初老の男性・中川と出会った。

中川は自分は映画のプロデューサーだと名乗り、仕事を手伝ってくれないかと語りかけてくる。

とても自分には無理だと思いつつも彼の熱意にほだされた香子は、毎日の空虚さを紛らす気分もあって、往年の名監督の家を訪問するという中川に同行した。それを契機にして退屈だった彼女の日々は変化していく。


少し出来すぎな話という感じもしますが、作者もそんな事は百も承知でグイグイと物語を進めていきます。

衣食住は足りて生活に不自由はないけど、生きがいを感じられない人々、本当に熱中できるものを持てなくなって心底退屈している人たち。山田太一は本当に人の気持ちをズバっと見抜く力が有ると言うか、この頃の日本人の空虚さを言い当てています。

劇的な話ではありませんけど、その分納得する描写が多く、時代の雰囲気を表すのに小説という手法がどんなに有効かを感じさせてくれる作品でした。