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塩田武士「騙し絵の牙」の感想です。

塩田武士「騙し絵の牙」☆☆☆

騙し絵の牙

速水輝也は大手出版社・薫風社が発行するカルチャー誌「トリニティ」の編集長を務めている。

新聞記者から編集者に転職した速水は元々が文芸志向で、新人小説家を編集者としてサポートし、一流の小説家に育てることが生きがいで、実際に速水が文芸担当だった頃に手がけた企画が成功し育っていった小説家も多く、速水の人脈は重鎮の人気作家から新人の小説家まで幅広い。

同期入社の小山内は速水を「天性の人たらし」と評しているが、独特の愛嬌と調整能力で上司や部下や業界関係者を上手く扱い、作家たちには真摯な態度で接するため、何かと頼りにされている。

しかし時代は出版不況で、大手の薫風社も例外ではなく、落ち込む一方の文芸誌は廃刊となり、速水が仕切る雑誌「トリニティ」も今後の状況次第で廃刊にせざるを得ないと上司の編集局長・相沢からは告げられている。

若手女優の作家デビューや人気作家の連載開始、大手石鹸会社とコラボした企画などを通して、「トリニティ」を黒字化しようと奮闘する速水だが、社内での社長派・専務派の権力闘争、速水自身のプライベート上のトラブルなどの問題が次々と発生し・・・。


主人公の速水輝也は、俳優の大泉洋をモデルにしているとの事です。

何か問題が起きた時にオチャラケたり、当意即妙の対応で難時を乗り越えたりするところが大泉流という事でしょうけど、読んでいる時には大泉洋の姿はあまり浮かんできませんでした。

タイトルやちょっと複雑な性格俳優でもある大泉洋をモデルにしているという事で、ミステリィかと思っていたのですけど、基本は興味深いビジネス小説でした。

出版業界の内実や現状がキチンと描かれていて、とても面白い作品でしたし、主人公が編集という仕事に対して誠実なので感情移入も出来ます。

それだけにエピローグの後半部分は不要だったのではないかと言う気がします。あえてあのエピローグにした意図が、管理人にはよく分かりませんでした。

普通の後日譚にした方がスッキリしたと思いますけど、ただ全体的には期待を裏切らない楽しめる小説で良かったです。