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塩田武士「罪の声」の感想です。

塩田武士「罪の声」☆☆☆

罪の声

父の跡を継いで京都で紳士服の仕立屋を営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中から古いカセットテープと英文で書かれた黒革のノートを見つける。

カセットテープを再生するとスナックで録音したらしい懐かしい父の声が聞こえてきたが、しばらくすると音声が切り替わり、たどたどしく話す幼児の頃の自分の声が流れてくる。

その声は、31年前に社長の誘拐と菓子に青酸カリを入れることで食品メーカーを恐喝して世間を震撼させた「ギン萬事件」で犯人が使った録音テープの声だった。

父が「ギン萬事件」に関係している?

訳が分からずに混乱する俊也は、父の親友だったアンティーク家具商・堀田の助力を得て、テープの謎の調査を開始する。

一方で大日新聞文化部の記者・阿久津英士は、社会部の事件担当デスク鳥居から、年末の特別企画で昭和・平成の未解決事件特集として「ギン萬事件」を取り上げるので、その調査を担当するように命じられる。

俊也と英士は、それぞれ別のルートで調査を開始するのだが・・・。


1984年から85年にかけて関西で起こったグリコ・森永事件を題材にして、「ギン萬事件」というフィクションの形を取りながら独自の推理を展開して描かれた、2016年の「週刊文春」ミステリーベスト10の国内部門第1位と第7回山田風太郎賞を受賞したミステリィの傑作です。

題材が重たい割には淡々と物語が進行していきますが、核心に近づいていくに連れ、重たい雰囲気になっていきます。

フィクションではありますけど、特に新聞記者の阿久津が丹念に事実を拾い上げて真相に迫っていく辺りの描写にはリアリティがあって、大枠はこれに近いような事件だったのでは・・・なんて思いました。

物語は時効となった「ギン萬事件」の真相を探る事がメインですけど、犯人の家族(特に子ども)が思わぬ形で事件に巻き込まれて、人生を狂わされてしまう姿も描いていて、そこに作品の本当のテーマがあるようです。

なかなか読み応えのある作品でした。