澤田瞳子「星落ちて、なお」☆☆☆
自らを画鬼と称した奇人で天才肌の日本画家・河鍋暁斎が死んだ。
暁斎の娘で女絵師のとよ(河鍋暁翠)は、喪主でありながら葬儀の後始末をとよや門弟たちに任せて別宅に籠もった腹違いの兄・周三郎(河鍋暁雲)の元を訪れ、そこで絵師としての周三郎の自分勝手で奇矯な姿勢に亡父・暁斎と通じるようなものを感じ、己の力不足を実感する。
周三郎は幼い頃に養子に出されたことを根に持っているのか、暁斎に厳しく仕込まれたとよや門弟に対してどこか距離を置いた態度をとっていた。
狩野派の流れをくむ日本画家としての技量には自負を持つとよだったが、しかし自分が暁斎のような万能の才を持たない不器用な画家であることの自覚はあり、亡父と同様の天才肌の画家・周三郎には予てから複雑な気持ちを抱いていた。
周三郎は絵師としての道を極めるためには他者を顧みない人間で、そういうところは父に通じるものがあるが、とよにはそこまでの覚悟が自分にあるのか自信はない。
それでも一人の絵師として、とよは己の道を歩み続ける。
巨星であった暁斎亡き後の明治から大正時代の日本画壇の流れと、とよや周三郎を始めとする河鍋一族の生き様や、その周囲の人々の運命を描いた作品です。
日本画に関わると狂人に近いような父や兄と違って、常識的なとよの体の中にも、やはり暁斎の血が流れていることが描かれていて、自分では如何ともし難い情念のようなもの、人間の業のようなものが痛ましいような、羨ましいような、そんな気分になる作品でした。
良い作品だと思います。