加納朋子「ななつのこ」☆☆☆

ななつのこ

第3回鮎川哲也賞を受賞したゆるやかな雰囲気の安楽椅子探偵物のミステリィです。

本屋さんでこの作品の概要をざっと読んで、小説家と手紙のやり取りで身近な事件の謎を解くという内容が面白そうな印象ではなかったので、その時は購入しなかったのですが、この作品の続編にあたる「魔法飛行」を魔法という言葉に惹かれて購入してしまい、やはり続編から読むのはチョットね、と思って先に読むことにした小説です。

少しノスタルジックでキレイな表紙の本だったので、大外れは無いだろうとは想像しましたけど、予想以上に楽しめました。

この作品を読んで以来、加納朋子は管理人のお気に入りの作家の一人です。


作品は北村薫の「円紫師匠と私」シリーズと同系列の、主人公の周囲で起こる身近な謎を解くタイプの連作ミステリィです。

主人公の短大生・入江駒子の考え方や行動が、北村薫の女子大生のそれと似ている様な気がします。

作品の中に登場する人たちも悪意の無い人が多くて、案外と世間は捨てたもんじゃない、なんて思ったりします。

「ななつのこ」という物語に感動した駒子が、自分の町で起きた不可解な事件について書いたファンレターを作者の佐伯綾乃に送ったところ、佐伯からその事件の解釈を綴った返事が届き、それから駒子と佐伯との文通により謎解きがされるという形式の連作ミステリィになります。

単なる謎解き物語というだけでなく、駒子の19歳から20歳にかけての多感な季節の成長物語でもあり、様々な事件が起きる度に彼女はひとつずつ大人に向かっていきます。

そんな駒子の姿を、この作品中に何度も何度も出てくる「ななつのこ」の主人公の少年・はやてに重ねているところが巧みな作品ですね。

7編の短編で構成されていますが、「白いタンポポ」という作品が感動的で実に良かった。女性作家らしい緻密で思いやりに溢れて、ほんのりした気分にさせてくれる作品でした。

正体が謎だった佐伯と駒子との出会いも良い雰囲気でした。この作品の続編になる「魔法飛行」も面白い作品で好きです。


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