面白い本を探す

海堂尊「輝天炎上」の感想です。

海堂尊「輝天炎上」☆☆

輝天炎上

海堂尊の様々なミステリィ・シリーズを収束させたような作品で、少なくとも「螺鈿迷宮」と「ケルベロスの肖像」は事前に読んでおかないと分からないのではないでしょうか。

彼のミステリィは「チーム・バチスタの栄光」から始まる東城大学医学部付属病院の田口先生と厚生労働省のエリート官僚・白鳥氏のシリーズ、病院長・高階氏の若かりし頃の物語であるブラックペアン3部作、医療過誤の問題を主題にした極北シリーズ、崩壊する産婦人科を舞台にしたジーン・ワルツのシリーズ、それに東城大学医学部付属病院と対比される碧翠院桜宮病院の闇を描く螺鈿迷宮がありますが、どれも同じ世界を別の角度から描いたシリーズとなっています。

そうした中で、この「輝天炎上」は螺鈿迷宮の続編のように描かれていますが、今までの諸作品を収束させるような位置にもあるようです。

そういう点では、この作品以前の海堂作品を読んだ方が、わかりやすいかも知れません。

この作品では一応「螺鈿迷宮」の主人公だった医学生の天馬と碧翠院の生き残り桜宮小百合が中心となって物語が進みますが、多くの登場人物が錯綜しますので、単純にこんな話だと言えない感じです。

「螺鈿迷宮」の続編であり「ケルベロスの肖像」を別の角度から描いた物語とも言えます。

この世界観の作品全体に言えるのですけど、正直言って桜宮一族の怨念というのが管理人にはピンと来ません。

また警察をはじめとする官僚や利益団体の陰謀はロジカルとしては理解できるけど現実味は感じません。

ここが嵌らないと、この世界を心底堪能するのは難しいような気がします。

個々の作品は日本の医療の問題に鋭く迫った作品が多くて読み応えがありますけど、全体として東城大学医学部と碧翠院との対決をテーマにされると荒唐無稽という印象を抱いてしまいます。

海堂作品はユーモアもあるし登場人物もユニークだし、ストーリーの展開も結末の意外性も面白いのですが、ただ全体的に色気が足りないのが残念です。