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五十嵐貴久「年下の男の子」の感想です。

五十嵐貴久「年下の男の子」☆☆☆

年下の男の子

大手乳業会社の銘和乳業広報課に勤務する37歳のキャリア・ウーマン川村晶子と、小さな広告会社に契約社員として就職したばかりの23歳の児島くん。

二人は銘和乳業が児島くんの会社に発注した新製品の健康ドリンクを宣伝するフリーペーパーに価格が印刷されていなかったトラブルに対処する為、徹夜でシール貼りをすることになってしまう。

銘和乳業側の発注ミスが原因で、切羽詰まった状況の中での共同作業だったけど、14歳年下の男の子・児島くんは今どきの子にしてはナカナカ仕事が出来る。

しかも二人は話が合うみたい。

この出来事がきっかけで、児島くんは14歳も歳が離れた晶子に猛アタックを開始する。


特にキャリア志向だったわけではないけど、仕事に真面目に取り組んでいたらいつの間にか管理職になっていた常識人のキャリア女性・川村晶子と、就活に失敗して契約社員として中小企業で働いている好青年児島くんの愛の物語です。

しかし恋愛小説と言っても、燃え上がる愛で世間の荒波を二人で乗り越えていくような過激なところは皆無で、もっとこざっぱりして普通に悩み、普通に考えていく現実的な印象の作品です。

ふざけているようには見えないけど、でも14歳も年上で特に美人でもない取り柄のない「私」のどこが良いんだろう?そんな風に考える晶子の一人称で物語は語られています。

37歳という微妙な年齢にいつの間にかなってしまい、独身で生きていく覚悟を決めてマンションも購入した。幸い勤務先は年功序列で、しかも男女差別があまりない社風の大手企業。今は課長代理だけど課長職も見えている。

そんな晶子の身の回りの出来事や、一緒にいると楽しいけれども年齢差に思い悩む児島くんとの関係が、日々揺れ動く気持ちと共にリアリティを持って描かれていて面白い作品です。

歳の差など全く気にしない自然体の児島くんが少し出来すぎという気もしますけど、こういう恋愛もアリかなと思います。

実際、最近は女性が年上のカップルが増えている印象もあるし、現実に14歳年上の奥さんというのも珍しいけど聞かない話でもありません。

ただそういうカップルは、この作品のように当然葛藤があるだろうし、そういう意味でも現実的な恋愛小説という気がします。

ユーモラスで明るい恋愛小説で、読後感もさっぱりしている作品です。