篠田節子「カノン」☆☆
昔感じていた音楽に対する強い情熱を無意識のうちに封じ込めて小学校の音楽教師として働く瑞穂。そんな瑞穂の学生時代の恋人・康臣が自殺した。
瑞穂は康臣が残したヴォイオリンの演奏テープを手にするが、その事をきっかけにして瑞穂の周りで不思議な出来事が起こり始め、気味が悪くなって捨てたはずのテープが様々な形で蘇ってくる。
康臣はこのテープを死の間際に演奏・録音していたが、果たして康臣が瑞穂に伝えたいことは何なのか?
瑞穂が閉じ込めたはずの記憶が蘇り始めた。
消せないミュージック・テープという辺りがホラー小説の傑作「リング」の死のビデオテープを連想させて、初めのうちは怖い感じがします。
音楽の天才だったが日常生活においては落伍者だった康臣と、音楽の才能は欠けていたが人生における成功者となった康臣の親友・正寛。
その二人と一緒に合宿と称して暮らした夏の短い期間に、瑞穂が康臣に感じた愛情と康臣の瑞穂に対する不思議な態度。
フラッシュバックで描かれる康臣と瑞穂の青春時代と対比するように、教師の夫と一人息子と暮らす瑞穂の平穏な日々、そして最近感じ始めたフラストレーションが描かれます。
そんな状況の中で康臣から送られてきたテープに恐怖を感じながらも色々と調べ始めた瑞穂が、過去を思い出すうちに、自分の人生、康臣の人生、正寛の人生、そして自分が失ったと思っていた音楽への情熱について考えを巡らせていく。
怪異現象は起こってもホラー小説ではなかったですね。
芸術の在り方や人間の生き方について問いかけるような作品でした。