馳星周「少年と犬」☆☆☆
「男と犬」「泥棒と犬」「夫婦と犬」「娼婦と犬」「老人と犬」「少年と犬」の6篇からなる連作短編集です。(文庫版は「少女と犬」が追加されているらしい)
2011年の大震災の後、何故か南を目指している雑種の野良犬・多聞と、その犬に関わることになった様々な背景を持つ人たちの物語を描いています。
「男と犬」は認知症になった母と母を介護する姉のために宝石窃盗団の運転手をするようになった青年と、彼がコンビニで拾った野良犬・多聞の物語。
殺伐とした日々に潤いを与えてくれるとても賢い多聞を飼いたいと強く願いながら、何か目的を持って移動している様子の多聞を応援したいと思う青年の心の揺れが、これからの物語を暗示するような導入部になっています。
「泥棒と犬」は宝石窃盗団のリーダーの外国人青年の物語。かつて飼っていた犬と多聞を重ねてしまう青年の思い出が悲しい物語です。
「夫婦と犬」は山道をランニング中に多聞を拾った脳天気な男性と、彼を支えているしっかり者の女性の物語。一緒になった時はダメ男との生活も輝いて見えていたのに、徐々に生活に追われて疲弊している女性が多聞に癒やされていく様子に人生を感じます。
「娼婦と犬」は碌でもない男のために風俗店で働く若い女性の物語。多聞に出会うことで彼女は一つの区切りをつける決心ができるようになる。
「老人と犬」は余命が限られたかつては名人と謳われた老猟師の物語。
「少年と犬」は東日本大震災を契機に釜石から熊本に越した少年とその家族の物語。東日本大震災で受けた大きな心の傷を多聞との交流から癒やした少年。彼に会うための多聞の長い旅が、ここで終わりを告げます。
それぞれ重たいものを抱えていた人たちが、多聞と出会うことでそれぞれの終焉を迎える現象だけを見れば多聞は疫病神のように見えても不思議はないのですが、結末がどこか穏やかで落ち着くのは、抱えていた重いものが軽くなり心の平穏を取り戻す姿が描かれているからでしょうか。