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スティーヴ・ハミルトン「解錠師」の感想です。

スティーヴ・ハミルトン「解錠師」☆☆☆

解錠師

8歳の時に起きた悲惨な事件のトラウマから言葉を発することが出来なくなったマイクル。

小さな町で奇跡の少年などと呼ばれていても、彼を本当に理解してくれる人や彼の友人となる人はいなかった。

しかし高校に入学して美術の才能を発揮した時からマイクルの人生が変わっていく。


刑務所で10年間服役している青年マイクルが過去を回顧する形式で描かれたエドガー賞受賞のミステリィで、犯罪小説としても興味深いけど、何よりも一人の少年の成長物語として面白い作品です。

いつも一人でいて孤独な日々をあまり自覚することもなく過ごしてきたマイクルが、高校の美術の時間に出会う1年年上のグリフィン。マイクルをありのままに見て話しかけてくるグリフィンと一緒の時間は充実している。このまま何事も起きなければマイクルの人生はおそらくもっと平穏になっただろう。

しかしグリフィンの前で錠前を開ける特技を見せた事から、上級生たちのおふざけに付き合う羽目になり、そしてそれが大騒動に発展してマイクルが知り合うようになるのが、母親が自殺して以来心を閉ざしている少女アメリアだった。

マイクルとアメリアの出会いと、二人が心を通わせていく場面は、なかなか素直な青春小説っぽい感じもします。

マイクルに金庫破りの手法を教えこむ通称ゴーストという名の老人や暗黒街の顔役のような謎めいた男などが登場して、犯罪小説としても面白い作品ですけど、そういう裏社会を描いた場面とマイクルのトラウマや心の動きなどを巧にかみ合わせて、ついつい先が読みたくなるような作品です。

一人の少年が転落していく話という風にもとれますが、全体的な印象はそういう感じでなく、人知れぬ才能を秘めた少年の成長の物語になっています。

おすすめのサスペンス・ミステリィです。