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スーザン・ブロックマン「夜明けが来るまで見られてる」の感想です。

スーザン・ブロックマン「夜明けが来るまで見られてる」☆☆☆

夜明けが来るまで見られてる

人気俳優だったジェリコ・ボーモントはアルコール依存症と薬物中毒が原因で仕事を失い、更に苛ついて暴力事件を起こし、すべてを失った。

リハビリ施設に入り何とか立ち直ったものの仕事の依頼はなかなか来ない。

かつては「最もセクシーな男性」に選ばれたこともあり、自分は才能ある役者だという自負も強いジェリコだったが、今の状況は仕事を選べるようなものではなく、どうしても俳優として再起したいジェリコは、以前なら見向きもしない低予算の文芸作品のオーディションを受けることを決める。

しかしプロデューサーのケイト・オラーフリンはジェリコの実力を認めながらも、予算ギリギリの映画に薬物中毒で時間にルーズだと評判のジェリコは使えないと拒絶反応を示す。

それでもケイトの元夫でもある映画監督が、この作品を成功させるためにはジェリコの力がどうしても必要だとケイトを説きふせ、ケイトは撮影中24時間の監視と薬物検査を行うことを条件にしてジェリコと契約を結ぶ。

表面上はケイトの条件に従うジェリコだったが、心の中では屈辱的な条件を認めさせられた事に怒り、ケイトを誘惑し自分に夢中にさせた後で捨てることで復讐しようと考えていた。


タイトルを見ると、ストーカー被害に遇っている女性の恐怖を描いたサスペンス・スリラーかと思ってしまいますが、サスペンス的な要素など全くないロマンス小説です。

低予算の映画撮影現場で、ジェリコを24時間監視するはずの元軍人の監視人が不祥事を起こした事から解雇され、代わりの人材が見つからなかった事からケイト自身がジェリコの監視役にならざるを得なくなります。

魅力的なジェリコと距離を置きたいのに、一晩中一緒に過ごさざるを得ないケイト。

ケイト自身が自分の理想像を投影して書いた映画の脚本の主人公は、妻を亡くした事からアルコールに溺れてしまうが、その危機を乗り越えて新しい道を歩み出すという男性で、その主人公を見事に演ずるジェリコに、あれは演技だと思いながらケイトは惹かれていきます。

そしてジェリコもまた、美しく有能なビジネスウーマンのうわべの下に隠されたケイトの本当の姿に惹かれていくのですが、ジェリコもケイトも人には言えない内面の葛藤を抱えています。

ジェリコが演じる映画の主人公に理想の男性像を重ねて、ジェリコのラブコールが演技だという疑念を拭えないケイトと、アルコール依存症に戻ってしまうのではないかと恐れていながら誰にも相談出来ず、それでいて誰からも信用してもらえないことに傷つくジェリコ。

ありがちなロマンス小説ですけど、それなりの説得力が感じられて管理人は好きな作品です。