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月村了衛「土漠の花」の感想です。

月村了衛「土漠の花」☆☆☆

土漠の花

ソマリアでの海賊対処行動に従事するため、海上自衛隊とともに現地に派遣された陸上自衛隊第一空挺団に、国境付近で墜落した連絡ヘリの捜索救助要請が入った。

人道的見地から救助隊の派遣が決定され、急遽人選された12名の陸自警衛隊は、ジブチ、ソマリア、エチオピアの国境地帯に出動したが、発見された連絡ヘリは岩壁に激突して巨岩に挟まれ、簡単には手が出せない状況にあった。

日暮れも近くなり、隊員たちは野営して一夜を明かし、翌日ヘリ乗員たちの遺体回収作業に入る予定でいたが、深夜闇の中から助けを求める声が聞こえた。

誰何した隊員の前に現れたのは3人の現地人の女性で、部族抗争で敵対していた部族が突然彼女たちの街を襲い、住人たちを残らず虐殺したと言う。

警衛隊隊長の吉松3尉は、他国の紛争に介入すべきではないという隊員の声を受け流して、救いを求める3人の保護を明言したが、その時銃声が響き、2名の自衛隊員と2名の現地女性が射殺された。

ここに実戦を経験したことのない自衛官達の、極限状況での試練が始まる。


久しぶり読んだ骨太の冒険活劇です。日本人作家では船戸与一以来ではないかと思います。

他国から見れば立派な軍隊でありながら戦闘が出来ない不思議な集団・自衛隊が、避難民保護から始まった武装勢力の執拗な追撃に会い、一人の女性を守るため、自らの命を守るため、壮絶な闘いに挑まざるを得なくなる姿を、迫力ある筆致で描いています。

先進諸国に蹂躙された上に、現代化したことで古くからの伝統が破壊され、悲惨な抗争が繰り返される貧しいアフリカの現状がまずあり、その上で生き残った自衛隊員たち一人ひとりの様々な思いが描かれていて、極限で展開される人間ドラマ、確執と後悔と懊悩と誇りと責任感と、そして自己犠牲に思わず涙してしまいます。

作者が現場で苦悩する自衛隊員たちをリスペクトしている姿勢にも共感できます。

すごい作品でした。