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諸田玲子「お鳥見女房」の感想です。

諸田玲子「「お鳥見女房」シリーズ」☆☆☆

「お鳥見女房」シリーズ

江戸幕府にあって鷹狩を仕切る鷹匠の下役として、鷹狩の準備や下見をし、時には幕府隠密のような任務を帯びる事もあるお鳥見役。そのお役を代々勤める矢島家の家付き女房の珠世を中心とした、情感ある人情物の時代小説シリーズです。


江戸郊外の雑司ケ谷にある組屋敷で暮らす矢島家に、縁あって子沢山の浪人とその浪人を敵として狙う女剣士が住むようになるところから物語が始まります。

そもそも矢島家にしても、けっして広くはない屋敷に、密偵の任を受けて江戸を出ている当主・伴之助と妻の珠世、隠居した珠世の父久右衛門、お鳥見役の跡を継ぐ長男・久太郎と剣術に打ち込む次男・久之助、年頃になりつつ有る次女・君江の6人家族が住んでいる。

そんな家に5人の子持ち剣客浪人と女剣士を迎えても、矢島家の人たちは誰一人嫌な顔をするわけでもない。主人公の珠世を始め、家族のそれぞれが人助けを当然と考えています。

そんな矢島家の面々と、その周囲の人達が織りなす人情時代劇は、どことなくゆったりとした時間が流れ、読んでいて気持ちが温かくなります。

但し人情物だと言っても、心暖まるだけの物語というわけでもなく、それ程高い身分ではない武家の生活や試練も描かれています。

珠世は明るい笑顔の素敵な女性として描かれていますが、時代小説で中年の武家の奥さんを主人公にした小説って、管理人はこの作品以外思い浮かびません。

そんな珠世の日常と長男・次男・次女のそれぞれの成長と人生を描いた作品は、読んでいて心地良く、何やら独特の世界が広がっています。

管理人は時の権力者水野越前守の鷹匠和知正太夫の娘で「鷹姫さま」と呼ばれる気性の激しい娘・恵以と、気性の穏やかな久太郎との恋がなかなか面白かったですね。

恵以が権力者の縁者であるうちは縁談を断る久太郎ですが、水野忠邦が失脚した後には自ら恵以を求めます。

そしてそんな久太郎と恵以をそっと応援する珠世。

こういう展開が江戸時代を舞台にした大家族のホームドラマっぽくて、正直言えばあまりリアリティは感じませんが、管理人はこのシリーズがお気に入りです。