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ロバート・ゴダード「千尋の闇」の感想です。

ロバート・ゴダード「千尋の闇」☆☆☆

千尋の闇

現代に生きる元歴史教師のマーチンは、友人に誘われてでかけた旅先で、不遇のまま亡くなった20世紀初頭の政治家エドウィン・ストラフォードの回顧録に出会った。

前途有望な青年政治家だったストラフォードは謎の失脚を遂げ、愛し合っていたはずの婚約者エリザベス・ラティマーからも拒絶されて人生は暗転した。

その失脚の謎が、ひょっとしたら解明できるのかも知れない。

野心に駆られたお人好しのマーチンは、実業家からの依頼もあってストラフォードの数奇な人生を調べ始めるのだが・・・。


元歴史教師が政治家失脚の謎を追い求めるうちに出会う運命の気まぐれと人間のさり気ない悪意を、情感たっぷりに描いた上質のミステリィです。

読み進むうちに、この政治家の悲劇に感情移入してページを捲るのも気が重くなりましたが、それもホンの短い間だけでした。

自分の身に起こる小さな不運や謎などを超越したストラフォードの生き様と誇りと、そして悟りは、読者である管理人にまで勇気を与えてくれます。

しかし人生とは如何に不公平なものか・・・。多くのものを得るに相応しい高潔な人物が不遇なままで人生を終え、卑怯者が地位や名誉や栄達を手に入れる事もある。

しかしそうした人生を嘆くでもなく、真実を見極め愛を全うする誇り高いストラフォードの生涯を思うと感動せずにはいられません。

謎を追いかける元歴史教師マーチンは、通俗的な本人が自覚する通りの心の弱い人物です。

読んでいて「おいおい・・・」と思うところも多々ありますが、これこそが管理人に近い凡人の生き様でしょう。

そうした物語の中で、ヒロインと言えるエリザベスの毅然とした一生にも又感動を覚えます。

20世紀初頭のイギリスを主な舞台として、運命の明暗と、それに翻弄されながらもけっして屈服しない誇り高き男を描いて感動を呼ぶ傑作ミステリィです。