面白い本を探す

ポール・メルコ「天空のリング」の感想です。

ポール・メルコ「天空のリング」☆☆

天空のリング

人類とAIで構成された共同体が去った未来の地球、荒廃した世界に遺伝子操作で作られた少年たちは、集団で一つの感覚を共有した一人の人間のように行動する新人類だった。

二人の少年と三人の少女から構成された新人類アポロは、外宇宙探査船の船長を目指して訓練を続けていたが・・・。


遺伝子操作で生まれた5人の少年少女が、特殊な器官を使用して記憶や感情を共有した一人の人格となり、彼らを狙う存在に抵抗して成長していく姿を描いたSF小説です。

ヴァーナー・ヴィンジの「遠き神々の炎」の犬型エイリアンや、古くはシオドア・スタージョンの国際幻想文学賞を受賞した名作「人間以上」で描かれたテーマと同一ですね。

複数の人間が組み合わさって別の新しい人間になるという発想は良いのですが、そのグループからはみ出すと、はぐれ者として孤独な一生をおくらないといけません。

こういうところは、欠員を違う個体から補充して変化していく融通無碍な「遠き神々の炎」の犬型エイリアンの生態の方が深みがあります。

また複数の人間がチームを組むというのと違って、4人で構成されているAさんと3人で構成されているBさんの恋愛はどうなるの?とか、同じ人間の中に違う性別の人間が含まれているとか、結合の方法が今ひとつ分かりづらいというか観念的すぎるようで、具体的に考えだすと生物としてムリを感じます。

物語自体は実験的に作られた5人で構成される彼らを狙う勢力との対決やら、AIと地球全体(一部の拒否者を除いて)で構成された「共同体」が去った後に残した遺産の話などを、5人それぞれの一人称で語っていて、興味深い冒険SFに仕上がっていると思います。