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木内昇「櫛挽道守」の感想です。

木内昇「櫛挽道守」☆☆☆

櫛挽道守

幕末の木曽山中の藪原宿で、名産品「お六櫛」を創る名工・吾助の長女・登瀬は、吾助の跡継ぎだった弟・直助が12歳の若さで亡くなった後、問屋に奨められた縁組を断って吾助の弟子となり、夢にまでみた櫛挽の修業に邁進する。

しかし女性が櫛挽職人になることに批判的な藪原宿の人々は吾助一家に冷たくあたるようになり、登瀬の生き方が理解できない母・松枝はそうした環境の中で悲しみに沈み、妹・喜和は登瀬に反発していく。

さらに吾助の弟子だった太吉は、登勢の才能に嫉妬して吾助の家を出て行く。

そうした中で、吾助の腕を慕った実幸という男が現れ、新たに吾助に弟子入りをする。

実幸は今までの櫛作りとは違った新しい感性を備え、伝統的な藪原のお六櫛とは異なる塗櫛を作り始め、問屋との付き合い方まで新しく変えていく。

愚直なまでに「お六櫛」の精粋を極めたいと願う登瀬は、実幸のやり方に反発するのだが、いつしか二人の婚礼が決められてしまい・・・。


幕末の宿場町を舞台にして、伝統ある櫛作りに全てを懸けた女性の半生を描いた名作です。

若くして亡くなった弟に対する思い、尊敬する寡黙な櫛挽職人の父との繋がり、母や妹との軋轢、動乱の時代を乗り越えて一時は反目する夫と新しい道を目指す登勢。

こういう苦難を乗り越えて新しい道を切り開いていくような物語は、どこか予定調和的な感じがあるのですけど、この作品は意外な展開があったりして、それでいて物語が破綻せずに感動を生み、全く大したものです。

日本の職人の作品というのは、こういう風に自分の生活を顧みずに一途に思う道を進む人が居てこそ、芸術の域にまで達しているんでしょうね。