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桂望実「ワクチンX」の感想です。

桂望実「ワクチンX」☆☆

ワクチンX

平凡な主婦だった加藤翔子は、20年前に高校時代の友人・井口栄喜が研究していた性格補強ワクチンの製造・販売を行うベンチャー企業ブリッジを立ち上げ、大成功を収める。

性格補強ワクチンは「工夫力」「発想力」「配慮力」「協調力」「落ち着き」「活力」「挑戦力」「起動力」「応用力」「粘り強さ」「柔軟性」「責任感」「感受性」「優しさ」「瞬発力」「心の強さ」「自己肯定力」「鈍感力」「冷静力」「決断力」の中から最大で10種類を組み合わせて摂取し、自分の性格をより良いものに変えて、人生を成功させようとするもので、始めのうちは怪しげなモノと世間から相手にされなかったが、その効果が知れて行くにつれ利用者が急増していた。

社長の翔子自身が利用者第一号として、本来のおっとりとした性格から決断力を備えた強い心を持つように性格を変えて、カリスマ経営者として敏腕を奮っていた。

ワクチンの効果は20年、しかし初めにワクチンを使用して性格を変えた10名のモニター達の効果が間もなく切れようとする頃になって、ワクチンの原材料の一つRXの細胞が原因が分からぬまま死滅していく。

このままではワクチン製造が止まり、利用者にパニックが広がるかもしれない。

翔子は大至急で原因を究明するように研究者たちに命じたが、誰にも原因は分からずRXの死滅を止められない。

そして性格補強ワクチンの効果が切れ始めたワクチン使用者達は・・・。


自分に自信が持てずにいざという時に尻込みしてしまう、なかなか冷静な判断が下せない、自己主張が強すぎて他人の中で浮いてしまう、人の視線が気になって落ち着かない等々、こんな性格を何とかしたいという気持ちは誰にでもあると思いますけど、そうした悩みを解決出来る性格補強ワクチン。本当にあれば使ってみたい気がします。

こういうテーマの小説だと、概ね不自然なモノを使っていた人たちはアンハッピーな結果が訪れて、やっぱり人間は自らの努力が大切なんですよ、というオチが待っている事が多いのですけど、この作品では単純にそんな風になるわけでもなく、ワクチンそのものに対する評価も使用者によってマチマチなのが良いですね。

性格を変えることの出来るワクチンなんていう設定の小説では、大いなる陰謀とか人間をコントロールする巨悪とか出てきそうですけど、それよりも人の幸せとは何とか、人はどういう風に生きていくべきなのかとか、そちらの方に重点を置いた物語だったのが良かったですね。

全体的にはどこか消化不良のような印象を受けましたが、なかなかの傑作という気もします。