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百田尚樹「海賊とよばれた男」の感想です。

百田尚樹「海賊とよばれた男」☆☆☆

海賊とよばれた男

民族系の石油会社出光興産の創業者・出光佐三(いでみつ さぞう)をモデルにした、第10回(2013年)本屋大賞受賞の大河小説です。


物語は1945年夏の終戦時、廃墟と化した東京で、石油会社「国岡商店」の店主・国岡鐵造が再起を誓い、売るべき商品など何もなく会社は解散すると誰もが思っていたところで、社員を一人たりとも解雇せずに国岡商店を再建すると宣言するところから始まります。

GHQに支配された日本で、同業者からは異端視され敵視されてきた国岡商店が、日本のため、日本の消費者のために尽くすという社是を守って奮闘して行く姿、そして話は遡り、国岡鐵造の若かりし頃に戻って、どのようにして国岡商店が作られて行ったのかを描いていきます。

様々なエピソードを積み重ねて、単なる実業家を超えた国岡鐵造(出光佐三)の壮絶な人生に迫りますが、出光ではなく国岡としているように、この小説は事実に基づいているのかも知れませんが、あくまでもフィクションとして読むべきなんでしょうね。


周囲に融合することを潔しとせず、自分が正しいと思う道を真っ直ぐに進む鐵造。当然ながら様々な軋轢を生み、鐵造に敵対する勢力が多くなっていく。

それはライバル社であったり、頭の固い官僚であったり、あるいは不景気の中で債権回収を急ぐ銀行であったりしますが、国岡商店が大きくなっていくに連れて敵対する勢力も大きくなり、石油会社の業界団体であったり、「七人の魔女」と呼ばれた強大な国際石油メジャーだったり、更には大英帝国であったりします。

普通の人間であれば怯んだり、節を曲げて妥協したりして、生き残りを図りますけど、鐵造はあくまでも信念を貫き、そういう鐵造に心酔する国岡商店の社員たちも一致団結して困難にあたります。

明治の人はやっぱり覚悟が違うと思いつつ、こういう人たちが頑張って今の日本を作り上げてきたんだろうな、などという事も思いました。


百田さんは言動が右翼的だと毛嫌いする方もいるようですが、少なくともこの作品にはそういう要素はあまりないように思います。

むしろ上からの統制を嫌い、自由に生きることを奨励していますし、至極まっとうな印象を受けました。

読んでいて胸がすく快作だと思います。