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椎名誠「新橋烏森口青春篇」の感想です。

椎名誠「新橋烏森口青春篇」☆☆☆

新橋烏森口青春篇

著者の後書きにもある通り、明るい私小説という感じのする自伝的な作品。

ケンカに明け暮れた高校時代から始まり、学生時代の梁山泊のような共同生活からサラリーマンとなり、出版社を興して作家となっていく著者の私小説的な作品シリーズの中の1作です。

アルバイトをしながら、友人たちと共同の下宿暮らしをしていた26歳の青年シーナ氏は、新聞の求人広告を見て小さな業界新聞社に勤めるようになります。

そんな青年サラリーマンの青春を描いた小説で、今とは違う大らかな時代のセコイ中小企業小説という雰囲気が漂うユーモラスで元気な小説です。

私小説のような小説ですから、あくまでも自分の周囲の出来事や思っていたことなどを普通に描いていて、場面が飛ぶのでとりとめがないようにも思えますが、気取らない文体で書かれた日常生活におかしみがあって、思わず引き込まれてしまいます。

明るい私小説か・・・。

確かに日本の私小説というのはどこか暗くて深刻なところがありますけど、小説なのか身辺雑記なのかあやふやなこの作品は、大した事件も起こらず何となく始まって何となく終わって、このゆるい感じがすごく心地よい。

こういう青春もいいなぁ・・・。

でも管理人には出来ないだろうな。性格的に向いていないし、何よりも酒が飲めないので、こういう飲んだくれて一日が終わるような暮らしが出来そうにない。色々な意味でうらやましい。

私小説というか自伝的小説というか、こういう小説は子供の頃から思春期・大学生くらいまでを懐かしく思い出して描いた作品が多いような気がしますが、社会人となり会社勤めをしているところを書いた小説というのは新鮮な感じがしました。

小説にはどこか「やはり人生は素晴らしい」と思わせるものがないと寂しいけど、この作品はあまり大上段に構えていないけど、日常の普通のことの楽しさを感じます。

シーナ氏の私小説はこの作品以降も延々と続き、どれも同じような雰囲気で面白いのですけど、やっぱりサラリーマンだった頃のこの作品が、管理人としては一番感情移入が出来て楽しめました。

この作品を現代に生きる青年が読むと隔世の感があるかもしれませんが、時代がこういう発展途上でエネルギーにあふれていた時代だったのか、それとも日本人が変わってしまったのか・・・。多分両方ともなんでしょうけど、そういうところは寂しい気がしますね。