面白い本を探す

佐藤雅美「調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚」の感想です。

佐藤雅美「調所笑左衛門 薩摩藩経済官僚 回天資金を作った幕末テクノクラート」 ☆☆☆

薩摩藩経済官僚

財政破綻に陥っていた江戸末期の薩摩藩の財政再建を行った調所笑左衛門を、斬新な視点から描いた歴史経済小説です。

そもそも薩摩藩に限らず江戸時代の多くの藩は、貧窮するような政策を幕府によって取らされていた。大方の藩は財政が破綻していた。

中でも特に薩摩藩はひどかった。

もともと借金が積み重なっていた上に、藩の実権を握る島津重豪の借金踏み倒し政策がこれに拍車をかけた。

そのため大阪の両替商(今でいう銀行の役目)からは借金が出来ない。当たり前ながら、返さない借主に貸す馬鹿は居ない。

金が払えなければ大工も左官も商人も出入りしない。そうなると屋敷の修復もままならず、藩士の給料も払えない。藩全体が困窮した。借金は500万両にまで膨らんだという。

そんな状態の薩摩藩の財政再建を行ったのが、茶坊主あがりの調所笑左衛門だった。

50歳にして島津重豪から慣れない役目を強引に押し付けられた調所笑左衛門は、運も有ったにしろ見事に藩の財政再建を成し遂げる。

この作品は、その過程を事細かに説明しています。実に分かり易い。

調所の政策は、こうして書かれれば簡単な事のように思えてしまうけれども、実際には誰にも成し遂げなかった事で偉業と言っても良い。

しかし作者も書いているように、人の評価の虚しさ、歴史の残酷さを感じるのが、調所笑左衛門の評価の低さ・・・というより悪評です。

幕末の名君として名高い島津斉彬との確執により不当に評価されているという。

明治維新における薩摩藩の存在は非常に大きいけど、しかし作者が主張するように、もし薩摩藩が幕末時点で貧窮にあえいでいたとしたら倒幕活動など出来ただろうか?

ある意味、明治維新は調所笑左衛門の存在無くして成立しなかったのではないか・・・。

時代小説が好きな管理人は、調所笑左衛門という名前は知っていましたが、どちらかと言えば彼を良く書いている作品を読んだ記憶がありません。財政は立て直したかもしれないけど、倹約家(というよりもケチ)で藩を私物化した小人物みたいな見方の評価が多かったような印象です。

そもそも日本人は金儲けとか財政を立て直すとかいう事を低く見る傾向があるように思います。最近では竹中平蔵氏の評価と何だか重なる気がしますね。

竹中さんは財政再建をしたわけではありませんが、少なくとも銀行の不良債権処理の道筋は付けました。その割にはそれを評価する声は極めて小さいように思います。

この作品は政治的な側面とは異なる別の角度から見た歴史を、非常に分かり易く説明している傑作だと思います。

実に面白かった。