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佐藤雅美「八州廻り桑山十兵衛」の感想です。

佐藤雅美「八州廻り桑山十兵衛」シリーズ ☆☆☆

「八州廻り桑山十兵衛」シリーズ

江戸時代の八州廻り(関東取締役出役)の御家人・桑山十兵衛を主人公にした時代小説シリーズです。八州廻りというと昔の時代劇では代官と同じで、立場を利用して悪いことをする役が多かった印象がありますが、このシリーズで描かれる八州廻りはもっとキチンとした役人として描かれています。

佐藤雅美作品によくあるように、初めのうちは結構シニカルな雰囲気が漂っていたりするのですけど、巻を重ねるごとに諧謔味を感じる話が増えていきます。

主人公の桑山十兵衛は亡き妻と良好な家庭生活を築けませんでしたが、少々おっちょこちょいな性格でありながらも酸いも甘いも良く分かったなかなか立派な武士で、しかも剣の腕前も一流です。

男女の仲は分からないものですが、何故亡妻が桑山十兵衛を嫌っていたのかが良く分かりません。

更に地方に出回っていることが多い役人の十兵衛と、幼い一人娘・八重との仲も微妙な感じで、勧善懲悪で収まる所に収まる時代小説とは少し違った感じで物語は始まります。

でも2作・3作と巻を重ねるごとに十兵衛は渋みを増し、活発な性格の旧家の出戻り女性登勢を新しく女房に迎えた辺りから、十兵衛の身の回りがある程度落ち着いて、テーマが江戸時代の関八州の風俗や習慣に移って面白くなって行きます。

佐藤雅美の時代小説は斬新で合理的な時代考証が特徴的で、この作品も目からウロコと感じることが多く、読んでいて興味がつきない気がします。

一応幕府の目が行き届いていたお江戸とは異なる、複雑な支配関係の関八州の風俗や当時の景色に味わいがあります。

佐藤雅美の目の付け所が良いのでしょうね、面白い時代小説シリーズだと思います。