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宮部みゆき「希望荘」の感想です。

宮部みゆき「希望荘」☆☆☆

希望荘

逆玉で日本有数の企業グループの経営者の娘と結婚した編集者・杉村三郎を主人公にしたシリーズ作品の4作目ですが、前作で離婚しちゃいましたので、もう逆玉ではないですね。

前3作は長編小説でしたが、この作品は探偵事務所を開業した杉村三郎が依頼された事件に挑む連作短編集で、「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の4編を収録しています。


「聖域」は杉村三郎の私立探偵としての初めての依頼を描いています。
死んだはずの年金暮らしのおばあちゃんを見かけたという女性からの依頼で、調査を始める杉村三郎。新興宗教らしきものにのめり込んで、母親の年金にまで手を付けたバツイチの娘から逃れるためにアパートでひとり暮らしを始めたおばあちゃんはどうなったのか?
比較的軽い話ですが、それでも根底に杉村三郎シリーズらしい人間の悪意が隠れている作品です。ただ主人公の周りの人間が好人物揃いですので、そこが救いですね。

「希望荘」は老人ホームで亡くなった男性が、「人を殺したことがある」と告白した事から、その真相を調査する物語。たんなる謎解きではないところが良いですね。

「砂男」は杉村三郎が田舎に戻ってから探偵事務所を開業するまでの経由を、失踪した蕎麦屋の亭主の事件にからめて描いた物語で、こちらもサイコパスの深刻さが根本にある物語になっています。

「二重身(ドッペルゲンガー)」は東日本大震災で行方不明となった雑貨店の店主の行方を調査する話で、たまたまの偶然が招く悲劇のようなものが描かれています。


全体的には主人公を始めとして善人が多く登場するので、そういった平穏な雰囲気が強いのですが、事件そのものは意外と救いようがない話もあって、勧善懲悪でめでたしめでたしな話ではありません。

人が良いというよりはお人好しの探偵が主人公という点で読みやすく、続きが読みたくなりました。