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今村昌弘「屍人荘の殺人」の感想です。

今村昌弘「屍人荘の殺人」☆☆☆

屍人荘の殺人

関西の私大・神紅大学に入学したミステリィ小説好きの葉村譲は、神紅のホームズと呼ばれているという3回生・明智恭介が会長のミステリ愛好会の会員になった。

明智と葉村だけが会員のミステリ愛好会で、明智は身の回りで起こる事件の謎解きをすると躍起になっているが、そんな事件が頻繁に起こるはずもなく、大体が二人で推理ゲームなどで暇をつぶしている。

そんな折、映画研究部が夏休みにペンションを借り切って心霊現象の短編映画を作るという話を聞いた明智は、そこに葉村と二人で参加できないかと映研の部長・進藤に頼み込むが、当然ながら断られてしまう。

当たり前だと思う葉村と、諦めきれない明智の前に、2回生の謎の美少女・剣崎比留子が現れ、3人で映研の合宿に参加しましょうと誘ってきた。何でも進藤の許可は既に得ているらしい。

明智の話では剣崎比留子は警察も認めている少女探偵で、幾つもの難事件解決に関係しているらしい。

こうして合宿に参加する事になった3人は、合宿が行われるペンション紫湛荘に向かったが、同じ頃ペンション近くの自然公園で行われているロックフェスで、とんでもない事態が発生しようとしていた。

ここに、前代未聞のゾンビ騒動と、大学生らが閉じ込められたペンションを舞台にした連続殺人事件が始まる。


第27回鮎川哲也賞を受賞し、その後第18回本格ミステリ大賞を受賞、「このミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト」でも第1位に輝いた奇想のミステリィ小説です。

重厚な本格ミステリィというよりも、金田一少年の事件簿や新本格派のミステリィに近く、更にそこにゾンビ集団出現による密室状態を作り出した新しいクローズドサークル・ミステリィで、文章も軽く読みやすいのでサクサクと読めます。

設定にリアリティはないし、登場人物も奥の深い人という感じはしないし、トリックも驚くほどのことはないし、犯人の動機についても釈然とはしませんけど、スピード感があって、尚且ここまで奇抜な設定でありながら不思議と破綻せずに物語が進むというのは、なかなかのものだと思います。

ゾンビがワラワラと出現し、この小説の連続殺人にも大いに関係するし、ラストシーンにも関係して来ますけど、その割にはあまりゾンビが怖くなく、ミステリィではあってもホラーとは違った感じで、こういう割り切り方も凄いと言えば凄い。

ミステリィの各賞を総なめと言うほどの作品とも思いませんが、しかし充分に楽しめる作品で面白かったです。