面白い本を探す

青山美智子「赤と青とエスキース」の感想です。

青山美智子「赤と青とエスキース」☆☆☆

若い女性を描いた「エスキース」というタイトルの絵画をモチーフにして、自分というものを見つめて再発見していく事を一つの主題にした、四章で構成された物語にプロローグとエピローグを加えた、一人称で描かれる連作短編集です。

「一章 金魚とカワセミ」は、メルボルンに一年間の短期留学をした女子大生・レイと、現地で知り合った日系のオーストラリア人ブーの恋愛を、気持ちを素直に表すことが出来ないレイの視点で描いた作品。

あまりにストレートな青春ストーリーで、こういう話が続いていくのを読むのは厳しいなぁと思いましたが、二章以降に繋がって行く「エスキース」が作成される場面を描いた重要な作品になっています。

「二章 東京タワーとアーツ・センター」は、絵画の額を作る職人が、10年前にメルボルンの画廊で出会った若い画家ジャック・ジャクソンの絵画「エスキース」の額装を担当する物語で、職人として一皮むけていく様子が描かれています。

「三章 トマトジュースとバタフライピー」は、権威あるマンガ賞を受賞した人気漫画家と小さな喫茶店で対談する中年漫画家が、かつてはアシスタントだった彼と話しているうちに自分の原点を思い出し一歩前に進んでいけるようになる話です。

「四章 赤鬼と青鬼」は、パートナーだった男性・蒼と些細な事から別れた51歳の女性・茜がパニック障害を発症し長期休暇を取ることになるけど、猫を飼い始めた蒼から数日猫の面倒を見て欲しいと頼まれた事をきっかけにして自分を見つめ直すという物語です。

そして「エピローグ」は、水彩画の大家ジャック・ジャクソンが昔20代の頃に描き、人生が変わった作品「エスキース」を手にして、この絵画に関わった大切な人たちやその思い出を語るという作品で、ここで今までの物語が見事に繋がって行きます。

出来過ぎという人も居るかと思いますけど、管理人はこういう物語がとても好きで、第一章の主人公のレイとブーはあの後どうなったのか気になっていたので、こういう事だったのかと納得しました。

組み立てが上手で、結末も良かったし、とても素敵な作品でした。