「放れ鷹日記」と「紫忠兵衛」の２篇を収録した時代小説集です。

「放れ鷹日記」は山手作品にしては少し風変わりな印象の時代小説です。

他藩に嫁いだものの後家さんとなり出戻った主君の姉にあたる奥方お美世は、我が儘で藩の風紀を乱している。

若い藩士・峰村鷹之助は、お美世を毒殺せよとの密命を受けますが、なんと気の毒なお美世の方と恋に落ちてしまいます。

山手作品らしいおっとりとした描写はありますけど、鷹之助と奥方お美世がくっつくまでの展開にはいささか無理がある設定だと思います。

鷹之助は山手作品の主人公にしては珍しく品行方正ではないタイプの武士で、本人が「これじゃ俺はただの痴漢だ」と呟いているくらいです。

物語ももっとスッキリとした終わり方をして欲しかったですね。

「紫忠兵衛」は典型的な山手ワールドの時代小説です。

江戸の美人芸者を無法者の手から救った見かけはおっとりとした冴えない若い武士に、その美人芸者が岡惚れしてしまう展開で、調子が良い尾羽打ち枯らした浪人や、威勢の良い三下や、気が強い美人スリやらが登場します。

話がこれ又尻切れトンボで終わってしまいますけど、こういう雰囲気は好きだなぁ・・・。