高野和明「ジェノサイド」☆☆

ジェノサイド

創薬化学を専攻する大学院生の古賀研人は、ウィルス研究をする大学教授の父親の突然死に驚く。

学者としての実績もなく、他人を羨むような言動などで尊敬出来ない父親だったが、やはり父の死は悲しい。

しかし父の葬儀を終えた研人に宛てて、死んだはずの父親から不可解なメールが届く。

訳が分からないながらもメールの指示通りに行動するうち、研人はボロアパートに作られた父の秘密研究室にたどり着く。

それと同じ頃、イラクで要人警護に当たる民間警備会社の傭兵ジョナサン・イエーガーは、肺胞上皮細胞硬化症という不治の病に冒され余命1ヶ月とされた息子の治療費を稼ぐために極秘の依頼を引き受けた。

詳細が明らかにされない汚れ仕事だったが報酬は異常に高額で、この任務のための特別訓練が終了した後に、イエーガーは3人の仲間とともに内戦が続くコンゴのジャングル地帯に潜入した。

実はこの任務は、アメリカ大統領と政権中枢にいる幹部たちが、ある理由からコンゴに暮らすピグミー族の1部落を殲滅するために民間企業の傭兵たちを雇った汚い任務だった。


こうしてアメリカでの陰謀、コンゴでの冒険、東京での創薬とサスペンスを交互に描きながら、雄大な構想の物語が進行していきます。

人物の造形に物足りなさは感じますが、幾つかの謎を配置した策謀が渦巻く冒険サスペンスはテンポも良くて、面白いエンターティメントだと思います。

しかしもっと単純なエンターティメントに徹すれば良かったのに、一昔前のリベラルな文人のような作者の思想が、良く出来たエンターティメントを不自然にしていて気になります。

主義主張自体はそれぞれであって構わないのですが、この小説に織り込む必然性が感じられません。

物語の本筋に関係ないし、特に伏線にもなっていないし、説得力もないし、かえって胡散臭い話に思えてきます。

更に作者は日本人が嫌いなのかな、傭兵たちの中で唯一人残虐な兵士として描かれているのが日本人だし、人類の残虐性の例えとして出されるのが、評価が定まっていない南京大虐殺だし、しかも規律に異常なくらいこだわった日本軍の兵士がやったとは思えないことまで既知の事実のように作中で語られると首を傾げざるを得ません。

因みにブッシュ政権をパロディ的に描いているアメリカのネオコン政権も、底が薄いというかリアリティに欠けているし、普通の日本人を日本国内でアメリカの言いなりに監禁出来るような筋運びにもムリがありすぎる。(陰謀は陰謀で良いけど、日本は法治国家だし、やっぱりモノには限度があるでしょうに・・・)

夢物語としてはとても面白い作品ですけど、全体的に現実感がなく作者の反日プロパガンダのようなものが少々鼻につく作品です。

こういう題材をフォーサイスが書いたとしたら、面白い作品に仕上げるだろうなぁと思いました。


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