冴えない中年男の三宅は、妻と高校生の一人息子と暮らす文具メーカーの営業部員だが、実は「兜」という通り名を持つ超一流の殺し屋だった。

子供の頃から荒んだ暮らしで、殺し屋の元締めの医師から請け負った仕事を感情を交えずにこなしてきたが、家族を持ち一人息子の克巳が成長してくるに連れ、この業界から引退したいと思うようになった。

しかし元締めの医師は、業界から引退するには大金が必要だとして、なかなか仕事をやめさせてくれない。

家族に正体を知られぬように淡々と仕事をこなす「兜」は怖いもの知らずの殺し屋だが、その彼が唯一恐れている存在が妻だった。

「兜」は異常なくらい妻に気を使う、恐妻家の殺し屋だった。

「グラスホッパー」「マリアビートル」に続く、暗黒街に生きる殺し屋を主人公にした殺し屋シリーズの連作短編で、「AX」「BEE」「Crayon」「EXIT」「FINE」を収録しています。

前2作は登場人物がどこか間抜けな感じで、ユーモラスで落語的なサスペンスでしたが、この作品は引退したがっている殺し屋と、その家族の物語が描かれていて、大分趣が違っていました。

特に父と息子のつながりは、感動的ですらありました。

また「兜」が妻に気を使う様子には、これってうちと同じだとどこか共感できる部分があります。更にそこまで奥さんに気を使わなくても良いんじゃないのと思いつつ、ラストシーンで「兜」が妻に異常に気を使う理由、夫婦だけが感じる絆の元があって、その辺りも良かったですね。