東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇蹟」☆☆☆
盗みを働いて逃走中の青年3人組。古い盗難車がエンストして仕方なく忍び込んだ廃屋は「ナミヤ雑貨店」という看板が掛かっている古い家だった。
廃業してからだいぶ時間が経っている雑貨店、しかし古いシャッターの郵便口から突然封筒が落ちてきた。
恐る恐る開いてみると、それは「月のウサギ」と名乗る女性からの悩み相談の手紙だった。
どうやらナミヤ雑貨店の店主は、40年前には困った人の悩み相談を請け負っていたらしく、「月のウサギ」というこの女性はその噂を聞いて手紙を書いたらしい。
3人組は戸惑いながらも何となく悩みの回答を書いて、返信用の牛乳箱の中に入れたのだが、その直後に「月のウサギ」からの回答の返事が郵便口から落ちてくる。
いくらなんでも返事が早すぎる。しかも文面をよく読むと、どうもこの悩み相談をしている「月のウサギ」は1979年に手紙を書いていて、それが時空を超えて3人のもとに届いているみたい。
他人の相談事に乗るほどの人生経験もない3人組は、相談者の事情など忖度せずにキツイ事を書いたりしていたのだが、それが却って相談者の心を打ってしまう。
「月のウサギ」の相談は3人の思惑とは少し違う決着となるのだが、そうこうしているうちに、また新しい相談の手紙が来てしまい・・・。
時空を超えて悩み相談が行われていく有様と、不思議な雑貨店にまつわる謎の解明を描いたファンタジックでハートフルな物語です。
初めは悩み相談にズッコケ3人組がおかしな回答をして、結果オーライとなるようなコミカルな連作短編集かと思っていましたが、その予想は見事に裏切られました。
幾つかの心温まるエピソードを重ねながら物語が進行して、その物語が影響しあって伏線となり、それぞれのピースがピタリと嵌っていって最後の謎解きに繋がるという東野圭吾らしい構成になっています。
また各章毎にちゃんとしたオチがついていて、一つ一つの物語としても人情物語としていい味を出しています。
何だか優しい印象の物語で、面白かったですね。