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キャサリン・アディスン「エルフ皇帝の後継者」の感想です。

キャサリン・アディスン「エルフ皇帝の後継者」☆☆☆

エルフ皇帝の後継者

エルフ帝国の第4皇子マヤはエルフ皇帝とゴブリン国王女の政略結婚で生まれた混血児だが、母子ともにエルフ皇帝に疎まれ、母亡き後は性格に難のある親戚の男と帝国の僻地に追いやられていた。

このまま僻地で忘れ去られたまま生涯を終えるはずだったが、マヤが18歳になった時、父の皇帝と3人の異母兄皇子が乗った飛行船が墜落し、マヤは新しいエルフ皇帝として即位することになる。

マヤを下に見る宰相や父の若き后、兄嫁や異母姉たちの冷たい態度を受けながら、孤立無援の若き皇帝となったマヤは、権謀術数が渦巻く宮廷の中で、皇帝の在り方に悩みながら自分の信じる道を歩み出す。


2015年のローカス賞ファンタジィ部門を受賞した、悩める青年皇帝の成長を描いたファンタジィ小説です。

知り合いも居ず馴染みもない宮廷、巨大なエルフ帝国の中で専制的な権力を持つ皇帝の地位に何もわからないまま就いたマヤ。

設定はエルフやゴブリンが登場するファンタジィの世界になっていますけど、エルフとゴブリンと言っても人種が違うだけですし、魔法使いは登場しても魔法はあまり使われないし、妖精やドラゴンや魔物なども登場しない物語です。

作品の舞台となるのも殆どが宮廷の中で、色々な意味でファンタジィの要素は殆ど感じられず、あえてエルフ皇帝などとする必要もなかったと思えますし、そういう普通のファンタジィを期待して読むと見事に期待は裏切られます。

さらに言えば、主人公のマヤが隠れた特別な才能を持っているとか、そういう事もなく、皇室を巡る陰謀はありますけど、大規模な戦争が起きたり、血なまぐさい大事件が起るということもありません。

いわゆるファンタジィっぽくなく、大きな事件もなく、恵まれない少年時代を過ごしてきた心優しい青年が、慣れない地位に戸惑いながらも公正無私な皇帝になろうと努力し、孤立無援の状況から徐々に味方となる人を増やして成長して行く姿を描いた作品で、地味ですがこれが意外にも心地よく面白いのです。

管理人は何度となく再読してしまいました。