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ジル・マリー・ランディス「ただもう一度の夢」の感想です。

ジル・マリー・ランディス「ただもう一度の夢」☆☆☆

ただもう一度の夢

トワイライト・コーヴというカリフォルニアの鄙びた観光地を舞台にしたロマンチック・シリーズの第3作目です。

ギリギリの切り詰めた生活をしながら廃屋のような古いホテルを改装中の未亡人トレイシー・ポッター。堅実な不動産ビジネスを展開していたはずの夫は、トレイシーの知らぬ間に膨大な借金を残して突然亡くなり、借金を清算した後に残されたのはこの古びたホテルだけだった。

ホテルを改装して、残された息子と二人で生きていこうと決めたものの、今のトレイシーには改築費用の捻出さえままならない。

それでもトレイシーには持ち前の明るさと前向きに生きる信念があり、この困難を乗り切る覚悟は出来ている。

そんなトレイシーのホテルに、霧雨の降るある夜ハーレイに乗った無口で影のある男性ウェイドが泊めて欲しいとやってくる。

まだオープン前だからと一度は宿泊を断ったトレイシーだが、ウェイドは現金を差し出してどんな部屋でも構わないと言い、そんなウェイドの様子が何故か気になったトレイシーは、彼をこのホテルの最初の客とすることを決める。

実はウェイドは高名なベストセラー小説家だった。

しかし彼の書いたサスペンス小説をなぞった模倣犯によって、12人の女性が惨殺される事件が発生し、被害者の遺族からその責任を問われる訴訟を起こされた。

裁判には勝訴したものの、ウェイドは自責の念にかられて筆を折り、誰にも行き先を告げない放浪の旅をしながら死に場所を探しているところだった。

何故かトレイシーのホテルを見た瞬間にここだと感じて宿泊したウェイドは、泊まった夜に見た奇妙な夢と、ホテル・オーナーのトレイシーに心惹かれて、しばらくこのホテルに滞在することを決める。


よく出来たロマンス小説です。

特に前半がすごく良かった。

オカルト的な雰囲気がホンの少しだけありますけど、気になる程ではありません。

失意のどん底にいるウェイドとトレイシー。お互いがお互いの中に救いを認めるものの、それぞれが抱えている事情が邪魔をしてしまう状況が、無理なく描かれています。

正体を隠しているウェイドが、トレイシーにいつどのようにして事情を打ち明けるのか気になりました。

またウェイドに懐いていくトレイシーの息子や、トレイシーの義理の娘なども絡ませて描かれる家族の再生の物語にも味わいがありましたね。


「トワイライト・コーヴ」シリーズ。
追いつめられて
悲しみを乗りこえて
「ただもう一度の夢」(本書)