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米澤穂信「黒牢城」の感想です。

米澤穂信「黒牢城」☆☆

黒牢城

織田信長の信任厚く摂津一国を任され、羽柴秀吉の配下として毛利攻めに加わっていた武将・荒木村重は、天正六年の冬に突如信長に反旗を翻し、居城である有岡城(伊丹城)に立て籠った。

秀吉は村重の翻意を促すため家臣の小寺(黒田)官兵衛を使者として有岡城に派遣したが、村重は秀吉の説得を受け入れず、戦国の世の習いに従わずに官兵衛を地下牢に幽閉した。

信長は勢いがあるが敵も多い。毛利からの援軍も間もなく来るであろう。しかしそうした村重の思惑は外れ、援軍はいつまでたっても来る気配がなく、信長に寝返る配下の武将も出てくる。

そうした緊迫した中で不可解な殺人事件が発生した。

動揺する家臣たちを宥めるためにも早く謎を解明したい村重だったが、良い思案がなかなか浮かばず、思い余って知恵者と名高い幽閉中の官兵衛に協力を仰ぐのだが。


籠城という特殊な条件の中で発生する事件を、城主である村重と囚われ人である官兵衛が解決するという戦国時代ミステリィです。

当初の目論見と異なって毛利からの援軍は来ない、戦況は悪化し人心は離れ、もともと下剋上で成り上がった村重には忠義が期待できる家臣も少なく、参謀となる対局を見渡せるような知恵深い家臣もいない。

敵方である官兵衛だけが村重の心の内を推し量れるという皮肉が、時間の推移とともに重くのしかかって来ます。

しかしながら謎解きと言っても驚くような内容でもなく、徐々にメッキが剥がれていく知勇兼備の猛将を描いた時代小説という印象です。

厳しい時代を生き抜くための深慮遠謀も感じられず、戦国武将の美学もなく、何だか人の心は移ろいやすいものだねという感想しか持てなかったのは少し残念です。

つまらなかった訳ではないけど、読んでみたら前評判が高かった分だけ期待が外れた作品でした。