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荻原浩「家族写真」の感想です。

荻原浩「家族写真」☆☆☆

家族写真

不惑を過ぎてまもなく還暦か・・・という世代の男性を主人公にした7篇の短篇集です。

主人公たちの多くは、まさしくこの作品を読んだ時の管理人と同世代。

客観的に見て人生の成功者と言える人は登場しませんが、それぞれ自分の道を歩んできた男たちを描いて、我が身を省みて色々と思うことがありました。

「結婚しようよ」は1つ年上の妻を亡くしてから、男手一つで息子と娘を育て上げ、還暦を迎えて娘を嫁に出すことになった男性の物語。吉田拓郎のヒット曲の歌詞をサブタイトルにつけて進行する話に、タクロー・ファンだった管理人は何だか青春を共有しているような気分になりました。

「磯野波平を探して」は、いつまでも自分が若い積りでいた男が、波平さんが54歳だと知って、自分ももうすぐ54歳になることから、軽いショックを受ける話。この気持は実は良く分かります。管理人も、年上だったカツオ君がいつの間にか年下になり、おじいさんだと感じていた波平さんの歳を超えた時にはやっぱり感慨深いものがありました。でも人生も捨てたもんじゃないよなぁ・・・。

「肉村さん一家176kg」は夫婦と一人息子の全員が太めの一家のダイエット物語です。まぁムリして痩せることもないと思いますが、でも太り過ぎも良くないとは思いますけどね。

「住宅見学会」は家を建てる予定の一家が、業者の案内で高級住宅街にある立派な邸宅を見学に行く物語。ユーモラスではあるけど少々シュールな印象も受けます。お金があるから幸せとは限らないと言う風な話です。

「プラスチック・ファミリー」もシュールかな。バイト先をクビになった51歳の独身男性が、廃品置き場で見つけた昔の恋人によく似たマネキン人形を持ち帰ったことから、人生を見つめなおして立ち直っていく話。ラストシーンがなかなか良かった。

「しりとりの、り」はリストラに会った元企業戦士の一日を描いた物語で、多分色々とあったのだろうけど、家族ってなかなか良いものだと思わせてくれます。

表題作「家族写真」は地方の昔ながらの写真館の頑固一徹な主人と、子どもたちとの話。それぞれに誤解があって離れ離れになっているものの、でも真面目に人生に向き合って生きていれば、人生は悪いようにはならないという物語に勇気づけられます。

リアルな人生はこんなもんじゃない、という感想を持つ人も居るかとは思いますが、管理人はこういう小説が大好きです。