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柏原兵三「長い道」の感想です。

柏原兵三「長い道」☆☆☆

長い道

藤子不二雄Aが少年週刊誌に「少年時代」というタイトルのマンガを連載して評判になり、その作品が映画化されて井上陽水の主題歌とともにヒットしましたが、その「少年時代」の原作になる作品です。


物語は太平洋戦争末期に富山の漁村に縁故疎開してきた小学5年生の杉村潔が出会う陰湿ないじめが主なテーマになっていますが、いじめっ子といじめられっ子という単純な図式には収まらない複雑な子どもたちの世界を、複雑な郷愁のようなものを交えながら描いています。

級長で誰からも一目置かれるクラスの優等生・竹下進は、表立ってはいじめなどしないけど、実はクラスを支配しています。

自分の意に染まない子どもに対して、影でクラスメートをけしかけて陰湿ないじめをしています。

頼りがいのある級長で頭の良い進は、潔と仲良くしたいという気持ちも強いのですが、都会っ子で垢抜けした潔に対して屈折した思いがあって、潔が何かをするわけでもないのにいじめてしまいます。

都会の少年・潔に漠然としたあこがれを抱くクラスメートも多いのですが、誰もが進の不興を買うの恐れて、あるいは積極的に、あるいは消極的に潔に対するいじめに加わっています。そしてそういういじめの場面でも、進はいじめに加担するわけではないのです。

何かとても日本的というか、そういうカラリとしないものを感じます。

しかもそんな進にしたって、クラスの中での立場は絶対的とまでは言えず、権力闘争に敗れれば彼自身がいじめに合うような状態です。

こういういじめの構図は現在でもあまり変わらないようですが、現代のいじめは子どものいじめの範疇を超えているようで、あれはもう犯罪に近い場合がありますので、一緒にしないほうが良いでしょう。

こういう作品を読むといじめを無くすというのは極めて難しそうな気もしますが、反面クラスの大多数の子供達は素直で人が良くて、いじめたくていじめているわけでもないのです。

また矛盾した言い方ですが、この小説の場合は進自身も悪意がそれほどある訳でもないように見えるところが、複雑な少年時代の気持ちなのでしょうか。

いじめられて通った学校までの遠い道のり。つらい日々。でも大人になって振り返って見た時に見える景色はまた少し違うのかも知れません。

嫌で嫌でたまらなかった日々が郷愁を持って語られているところに管理人は救われます。