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小野不由美「残穢」の感想です。

小野不由美「残穢」☆☆

京都に住んでいる小説家の「私」の元に、ある日読者である久保さんから、彼女が一人で暮らしているマンションの和室で何かが畳を擦るような奇妙な物音がするという手紙が届いた。

「私」は少女向けのライトノベルやホラー小説も書いていて、以前そうした小説のあとがきで、読者に「怖い話」があれば教えてほしいと頼んでいたが、久保さんはそれを覚えていて連絡をくれたらしい。

その後、久保さんは誰もいない和室に着物の帯のような平たい布が動くのを見たとメールをくれる。

どこかで聞いたことのあるような話だと思った「私」は、転居のために読者からの手紙を整理していた時に、やはりマンション住まいの屋嶋さんという女性から来た「何かが床を掃くような音に悩んでいる」という手紙を発見する。

久保さんと屋嶋さんは部屋こそ違え、住んでいたのは東京近郊の同じマンションだった。

これは偶然なのか、気のせいなのか・・・。

「私」は久保さんの協力を得て怪奇現象の調査を始めるが、調査を進めるうちにマンションがある土地にまつわる恐ろしい事実が浮かび上がって来て・・・。


小説家がライターである読者と共に怪異現象の調査を進めるという、第26回(2013年)の山本周五郎賞を受賞したドキュメンタリー・タッチのホラー小説です。

調査を進めるうちに明らかになる事実には、なかなか凄惨な事件も含まれていますけど、描き方が淡々としているので然程恐ろしい雰囲気は受けません。

怖い話ではありますけど、びっくり箱をひっくり返すような怖さはないし、「リング」のようにじわじわと迫る恐怖感もそれ程感じませんでした。

一つには主人公の「私」があくまでも冷静でいるからなんでしょうね。

そういう怖さを求めている読者には物足りないかも知れませんけど、日本古来の死による穢れと、その伝播という視点で描かれた物語には興味を感じて、読み始めると終われない感じです。

読んでいて、少しだけ後ろが気になるような怪奇小説です。