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岡嶋二人「クラインの壷」の感想です。

岡嶋二人「クラインの壷」☆☆☆

クラインの壷

極めて現実感に富む新しいヴァーチャル・リアリティ・システム「クライン2」の製作に関わることになった青年・上杉彰彦が、その仮想世界に囚われていく姿を描いたSF仕立てのサスペンス小説です。

ヴァーチャル・リアリティの世界が持つ恐ろしさを巧みに描いています。

読む前はヴァーチャル・リアリティを経験したことをきっかけに並行世界に入り込んでしまうというようなSF系の小説だと思っていましたが、K2というマシンの存在を除けば基本はサスペンス・ミステリィです。

現実と虚構の境界が徐々に分からなくなっていく主人公の苦悩がよく描かれていて、1989年の作品とは思えないような先見性を感じます。

全体的に作者の文体が変にジメジメせずにカラッとしているので、余計な不安感を感じさせず、それでいて不気味な雰囲気を盛り上げていくところがすごいですね。