面白い本を探す

フレデリック・フォーサイス「悪魔の選択」の感想です。

フレデリック・フォーサイス「悪魔の選択」☆☆☆

悪魔の選択

ソ連で発生する深刻な穀物の不足を契機に、反ソ連のウクライナ過激派によるKGB議長暗殺事件が発生し、さまざまな思惑を抱えた欧州各国とアメリカの諜報員が暗躍する。

そうした緊迫する情勢の中で浮上するソ連共産党政治局内での対立。老練な共産党書記長の打つ手は果たして・・・。


1979年に邦訳が出版された、冷戦時代を背景にして国際謀略を描いたサスペンス・ミステリィの傑作です。

この作品を読むまで、ここまでリアリティを感じさせる政治謀略ミステリィを読んだことがなかった管理人は、とても驚いた記憶があります。

複雑で独立した物語が並行して進むうちに、それらが見事に一つに収斂していく構成の巧みさには脱帽するしかない。

米ソが対立する冷戦がもちろん背景になりますが、それでもソ連の凋落傾向は隠しようもなく、そうした中で繰り広げられる権力闘争が実に興味深い作品です。

複雑なパワーバランスの中で、米ソ2強だった世界も、今ではすっかり変わってしまいました。

共産中国やそれ以外の国家でも権力闘争はあるし、それなりの陰謀は存在していると思いますが、どうも旧ソ連の複雑な権力バランスの世界と比べると、小粒な印象を受けます。

時代が様変わりした現在、この作品のような緊迫感のある小説は出てこないような気がします。