フレデリック・フォーサイス「戦争の犬たち」☆☆☆
アフリカの小国ザンガロに膨大な埋蔵量のプラチナ鉱脈があることを知った英国の巨大企業会長は、ザンガロでクーデターを起こして自分に都合の良い政権を作り、自社の子会社に採掘権を与えて、その利益を独占しようと陰謀を巡らした。
そのため優秀だと評価されている傭兵隊長キャット・シャノンに、自分たちの思惑を秘したまま、現地調査から武器と兵員の調達、実際の戦闘などクーデターの計画と実行を依頼する。
ザンガロに赴いたシャノンは現地調査を開始し、クーデターの計画立案を進めるのだが、しかし彼にはまた別の思惑があった。
フォーサイス作品らしい構成力で人間愛を描いた傑作サスペンスで、計算し尽くされたプロットと個性的な登場人物たちの性格描写に一流のジャーナリストとしての視線が重なり、ストーリーの運び方とタッチに緊迫感が溢れています。
それに加えて、この作品からは、作者のアフリカに対する非常に深い思い入れみたいな物を強く感じます。
アフリカを一度知った者は、その魅力から離れられないそうですけど、作者のフォーサイス自身も、この作品中で彼を代弁する傭兵隊長シャノンも、シャノンの計画に参加する傭兵達も、皆アフリカが大好きという感じがすごく良く出ています。
その大好きなアフリカを私利私欲により喰い物にする一部の為政者と、超大国・先進国・多国籍大企業等に対する反感と批判が文中に溢れている作品です。
しかし傭兵というのは何でしょうか?
金で雇われた兵士が、本気で命を掛けて戦えるのでしょうか?
管理人には以前から疑問でした。
傭兵はけっして金の為だけに戦うのではない、という事をフォーサイスは登場する傭兵の一人ランガロッチの口を借りて主張しています。
「ほんとうは金じゃないよ。金のために戦ったことなんか、一度もないぜ」
そうでしょうね。幾ら金が欲しくたって、たった一つの命を金なんかの為だけには捨てられやしない。
自分の信念に合った意義を見出せない事には、命をかけて戦うことなど出来ない。
伏線に富んだ意外な展開や緊迫感なども流石ですけど、それ以外の点でも面白い作品だと思います。